ユーダリル
考えすぎといってしまえばそれまでだが、ディオンはアルンに復讐をしているのではいか。
しかし、ディオンは頭がいい飛竜。人間を襲っても、殺害するということまではしないだろう。
考えれば考えるほど、混乱していく。
その時、人差し指に痛みが走った。
どうやら散漫な集中力の中で仕事をしていたので、手入れしている道具の角で斬ってしまったようだ。
反射的に怪我した指を口に含むと、何とも表現し難い味が広がる。そして口から指を出すと、滲む血を眺めた。
「えーっと、確か……」
彼の仕事には、怪我が付き物。その為、道具用の袋の中に、怪我の手当てに使用する道具が入っている。ウィルは片手で器用に袋を開くと、軟膏タイプの傷薬と包帯とハサミを取り出す。
それらを使い、手馴れた手付きで治療していく。そして解けないように、きつく包帯を縛った。
「これでいいか」
手当てした指を天に掲げると、まじまじと見詰め満足そうに頷く。すると、ウィルに人影が重なった。
一体、誰か。
気配がする方向に視線を向けると、側に立っていた人物がセシリアと知る。同時に、仕事はいいのか尋ねた。
「休憩です」
「そうなんだ。で、兄貴は?」
「部屋で、悩んでいます」
「兄貴が? 兄貴って、悩むタイプじゃないと思うんだけど……天変地異の前触れか。あっ! 島が落ちるんだ」
「それはないと思います。それに、どうして悩まれているかというのも、わかっております」
「何?」
「それは……」
一瞬、口籠る。
彼女にとって何か不都合な内容なのか、セシリアはなかなか次の言葉を言おうとはしない。しかし、相手は言って都合が悪い人物ではない。それは長年の経験でわかっているので、思い切って言葉に表す。次の瞬間、ウィルは間の抜けた表情を浮かべるが、瞬時に満面の笑みを作った。