ユーダリル
そのことは、大勢の人間の心配の種であった。
だが、矯正の道は遠い。
店を出たウィルとユフィールは、真っ直ぐ屋敷へ向かっていた。先程の出来事がショックなのかユフィールはウィルの後を歩き、貝のように押し黙っている。すると沈黙に耐え切れなくなったウィルが、声を掛ける。それは、何気ない一言。しかし、ユフィールには衝撃的な言葉であった。
その声に身体を震わせながら反応し、裏返った声音で返事を返してしまった。唐突な出来事に、ウィルは目を丸くしてしまう。それを見たユフィールは緊張と恥ずかしさが入り混じり、頭が真っ白になってしまう。そして徐々に聴力が失われ、周囲の音が消えてしまった。
「だ、大丈夫?」
その声は、ユフィールの耳には届いていない「ウィルに、恥ずかしい一面を見られた」という感情が先頭に立ち、顔色が徐々に赤へと変化していった。そして俯き、ボソボソと何かを呟いてしまう。それは自身が行ったことを否定するものであり、完全に自己嫌悪に陥る。
「何か悪いことをした?」
「そ、そんなことはありません」
反射的に顔を上に上げると、否定の言葉を発する。その瞬間、ウィルと目が合った。すると、再び視線を下に向けてしまう。意味不明な行動を繰り返すユフィールにウィルは苦笑すると「何処か行かない」と、誘った。それは、気分転換という意味合いが含まれたものだった。
「でも、仕事が……」
「ユフィールが、元気になる方が大事だよ」
「……有難う……ございます」
ユフィールからの返事にウィルは満面の笑みを浮かべながら頷くと、徐に手を握り締める。何の前触れもない突然の行為に、ユフィールは嬉しそうに微笑む。ユフィールも自分からも強く手を握り締めると、その上に空いている方の手を添える。その瞬間、二人の周囲にほのぼのとした気配が漂う。
「じゃあ、行こうか」
「は、はい」
二人で、何処かに行ける。それだけで十分であり、何度も大きく頷いてしまう。ユフィールにしてみればウィルが連れて行ってくれるのなら、何処でも良かった。その時、怪しい人物が物影から姿を現す。その者はポケットから取り出したメモ帳に何かを書き記すと、二人の後を追った。