ユーダリル
「す、すみません」
「苦労しているからね。ついつい、応援してしまうよ。頑張ってね。気を落としてはダメよ」
「は、はい」
「いいのよ。気にしない」
苦労を背負い込んでいるのは、昔から。
年齢が離れているせいか、いつまで経っても子供扱い。
更に資金提供者という立場も大きく関係し、二人の関係が逆転することは決してない。
もしそれがあったとしたら、天変地異の前触れ。
そして、アルンが不渡りを出す前兆だ。
ラヴィーダ家に、下克上が訪れることはあるのか。
それを行うには、ウィルが経営の道に進むしかない。
しかし経営の知識が乏しいのでアルンに敵うわけがなく、このままの力関係でいくしかない。
それに敵に回した時の恐ろしさを、実弟のウィルが一番わかっている。
「それでは、僕は――兄が、煩いですから」
「本当に、大変ね」
「泣きたいです」
「頑張って」
泣き喚いたところで、力関係が逆転することはない。
全ての実権を握っているのは、アルンであった。
そして反撃は、時として身を滅ぼす。
流石に、それは行うことができないでいた。
牧場を後にしたウィルは、小高い丘の上に向かう。
其処からは先程までいた牧場を見渡せ、動物達は豆粒のように小さい。
牧草の風景とは違う自然の草花が、花の香りを届ける。
ウィルは一気に頂上まで登りきると、周囲に視線を走らせ待たせてしまっている相手を捜す。
「寝ていたのか」
其処では、黒い身体の飛竜が昼寝をしていた。
頭の上に小鳥を乗せ、置物のように動かない。
ウィルは飛竜を起こそうと近付いた瞬間、頭に乗っていた小鳥が飛び立つ。
その羽音に、飛竜が目を覚ました。
「ディオン、お待たせ」
そのように名前を呼ばれた飛竜は、ウィルの存在に気付くと、待っていましたと擦り寄ってくる。
元来竜という種族は、凶暴で気性が荒い。
だがこの飛竜は、性格は至って温厚。
それに、卵の時から一緒にいる関係。
それにより、温め孵化させてくれたウィルを親のように慕っている。