ユーダリル
怪しい人物がつけて来ていることに気付いていない二人は、工房が立ち並ぶエリアへ向かった。
島と島の間を結ぶ不安定な橋を渡り、活気付いた街の中に入っていった。家々の煙突からは白い煙が立ち昇り、職人達が作業に勤しむ。そして聞こえてくるのは、リズミカルな作業音。この音を聞いているだけで、この一体でどのようなことが行われているのか判断できた。
とある家の窓から室内を覗き見ると、五十代前半の男性が細かい作業を行っていた。見ればアクセサリーに細工を施している最中で、真剣な目付きで作業を行っている。ふと、その作業を見ていたユフィールの肩が叩かれた。それを合図に振り返ると、ウィルがある場所を指で示している。
「織物工房?」
掲げられていた看板に書かれている文字を声に出して読むと、ユフィールは首を傾げてしまう。織物工房に、どのような用事があるというのか。その意図がわからないユフィールであったが、ウィルの後をついていくと決めているので、其処に迷いというものは存在しなかった。
建物の中に入った瞬間、複数の機織の音が耳に届く。どうやら、様々な布を織っているようだ。この工房は機織を行っている他に販売も行っているようで、店内には色とりどり布が置かれており、その色彩の多さに目が奪われてしまう。それを証明するかのように、ユフィールの瞳が輝いていた。
「……綺麗」
「此処は、貴族のお抱え工房だからね」
「それでしたら、アルン様も――」
「それ、正解だよ。兄貴は一番高い布を使用して、毎回服を仕立ててもらっているらしいから」
「だから、ご存知だったのですか」
「自分には、金を使っているよ」
「アルン様らしいです」
「そう、兄貴らしい」
言葉の隅々に、鋭い刺のようなものが見え隠れしていた。どうやら、アルンの行動が気に入らないようだ。
そんなウィルにユフィールはクスっと笑みを浮かべると、綺麗に並べてある布の中から好きな色で染色された物を手に取る。その柔らかな手触りに、思わず溜息をついてしまう。流石、貴族のお抱えの工房。庶民が滅多に手に入れることができない布に、緊張してしまう。