ユーダリル

「その色、好きだったね」

「はい。空と同じ色ですから」

「それなら……」

 そこで言葉を止めると、ウィルは考え込んでしまう。そして両手を組み、視線は明後日の方向に向く。滅多に見ることのない姿にユフィールは声を掛けようとしたが、その前にウィルが口を開いた。そして、考えていたことを告げる。次の瞬間、ユフィールは頭を振っていた。

「い、いけません」

「気にしない気にしない」

「高いです」

「全部は買えないから、一部だけだよ。それに、少しなら値段は張らないし。少し待っていて」

 ウィルはユフィールが持っていた布を半ば奪い取るように受け取ると、カウンターの奥で作業を行っていた人物に声を掛ける。そして真剣な面持ちで、交渉をはじめた。暫くそのやり取りが続けられていると、相手が大きく頷く。それは、半分諦めに等しいものであった。

 一応、交渉は成立したらしい。それと同時に相手は布を受け取ると、大きな断ち切りバサミで布を切りはじめた。高級な布を躊躇うことなく裁断していくことに驚いてしまうが、そのことに反論はできない。交渉をしたのはウィルであって、ユフィールが口を出す理由はない。

 それにウィルから、待っているようにと言われていた。下手な行動は邪魔になり、迷惑を掛けてしまう。その為、ただ見守るしかなかった。だが、気分は落ち着かない。思わず、胸元を押さえてしまう。

 裁断が終わると、カウンターの下から箱が取り出された。しかしウィルは頭を振り、それが必要ないことを伝える。それに対し相手は首を縦に振り返すと、算盤を持ち入り会計をはじめた。素早い動きで、玉が弾かれていく。そして弾き出された値段に、ウィルは目を疑った。

 まさか、これほど高い値段だったとは――だが裁断してしまっているので、断ることはできない。それに買うという約束をしている手前、必要ないとは言えなかった。仕方ないという思いで清算を済ませると、ウィルは裁断した布を受け取り、ユフィールのもとへ戻って来る。

「はい、これ」

 手渡されたのは、リボン状に切られた長い布であった。それを見たユフィールは、思わず突き返してしまう。確かに二人は付き合っているが、このように高い品物を貰いたい為に、ウィルと付き合っているのではない。だからユフィールは、反射的にそれを付き返してしまう。
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