ユーダリル
その初々しい姿に、店の住人は茶化すように口笛を吹く。それに過剰に反応したのはユフィール。顔を赤く染めると、何を思ったのかそのまま工房から出て行ってしまった。その姿にウィルは、急いで後を追う。これもまた初々しい姿と映ったのだろう、再び口笛が吹かれた。
「ユフィール!」
そう叫んだところで、相手からの返事はない。何処へ行ってしまったのだろうと周囲を捜していると、薄暗い小道の奥に立ち尽くしていた。ウィルはその姿に苦笑いを浮かべると、声を掛けることにした。
刹那、衝撃的な光景を目撃してしまう。何と不審人物が、ユフィールに声を掛けていたのだ。
そして腕を掴み、何処かへ連れて行こうとしている。そのことに驚いたウィルはユフィールを助けようと、男の側に駆け寄り足蹴りをしていた。それも容赦ない、鋭い一撃を――
「何をしている」
足の入った位置が悪かったのか、男は腹を抑え蹲る。そして苦痛に呻き、顔からは脂汗が流れていた。ウィルはユフィールを後ろに隠すと、何をしていたのか問い質す。しかし、相手から返事はない。
「どうせ、兄貴に関係していることだろ? 周囲を狙うなんて、みっともない。男なら、正面から攻撃を仕掛けないと。兄貴って遠回しの攻撃って、嫌いなんだよね。あの性格だけど……」
どうやら図星だったらしく、男の身体がピクっと反応を見せた。アルンに敵が多いということは知っていたが、まさかメイドを誘拐するとは――普通は、思いもしない。多分アルンに攻撃を仕掛けても、返り討ちに遭うからだろう。それにより周囲を狙うとは、情けない。
「兄貴なら、正々堂々と勝負を挑んでくれるよ。ただ、卑怯な相手には容赦はしないだろうね」
「う、煩い」
「そんなに、無理をして」
すると痛みに耐え、男が立ち上がった。だが脂汗でぐっしょりと濡れた顔が、何とも痛々しい。ウィルは「汗を拭いたら」と言うも、それに従う様子はなし。不意の攻撃を食らったとこが悔しいのだろう、鋭い視線をウィルに向けていた。しかし、迫力は一切感じられない。
ウィルはその顔に、見覚えがあった。それはつい最近、場所はトレジャーハンターのギルド。そう彼はウィルの同業者で、いわゆるお仲間さん。そして名前は「ロバート」だったと、記憶から蘇らせる。そのことが判明した途端、ウィルは大声を上げ相手を指差していた。