ユーダリル

 花園――という言葉が似合う場所で、自然の美に対し人間が持つ言葉で表すのは実に難しい。

 ただ、ウィルは「綺麗」と言い、目の前の花園を眺めている。そしてユフィールは花の中に座り、咲き乱れる花を指で触れる。また花の冠を作りたいのか、気に入った花を探しはじめた。

「ヘルマー爺ちゃんが、喜ぶな」

「庭師の方でしたね」

「そう。爺ちゃんは、花々を愛しているからね。だから、こういう場所が好きかもしれない」

「では、教えませんと」

「それがいいね」

 彼女の言葉にクスっと笑うと、ウィルも花の中に腰を下ろした。そして身近に咲いていた花を手折ると、ユフィールの前に差し出した。何の前触れも無い行為にユフィールは驚くが、彼の優しい心遣い。差し出された花を両手で受け取ると、花の香りを楽しむのだった。

「有難うございます」

「別に、礼を言わなくてもいいよ。それより、野草を育てるというのもいいかもしれないね」

「お屋敷ですか?」

「実家は、無理だよ。庭は、爺ちゃんのテリトリーだから。勝手に植えたら、何かを言われる」

「そうですか」

 そのように言われると、勝手に花を植えるわけにはいかない。それにウィルの話を聞くと、ヘルマーは庭師のプロ。その人物が管理している場所に、素人が手を加えていいものではない。

 だが、ウィルは諦めたわけではない。実家の屋敷が駄目なのなら、一人暮らししている家の周囲に植えればいいのだ。

「では……」

「そっちに、植えようかと思う。まあ、問題はどのように植え替えが大変……かもしれない」

「私も、手伝います」

「助かるよ」

 一人で植え替えを行なうのは大変だが、ユフィールが手伝ってくれるというのなら心強い。それに、彼女は仕事熱心。ユフィールが手伝ってくれるのなら、短時間で植え替えが終わるだろう。彼女の手伝いの確約を得られたウィルは、どの花を植え替えようか決めていった。
< 320 / 359 >

この作品をシェア

pagetop