ユーダリル
選ぶ花の大半は、ユフィールの意見が強く繁栄された。美的感覚でいえば、彼女の方が上だからだ。
あれやこれやと選んでいくうちに、空の色が微かに変化していることに気付く。その色を見たウィルは慌てて立ち上がると、ユフィールに急いで屋敷に戻らなければいけないと伝えた。
予定ではもっと早く帰宅する予定だったが、ついつい話し込んでしまったのでこんな時間になってしまった。
ウィルはユフィールの手首を握ると、駆け足で屋敷がある方向へ走って行く。しかし、現在の場所から屋敷までは、相当の距離がある。その為、懸命に走っても途中でユフィールの体力が尽き、トボトボと歩き出す。
「大丈夫か?」
「は、はい」
「ディオンを連れて来れば良かった」
今回は「邪魔になる」という理由でディオンを屋敷に置いてきたが、まさかこのようになるとは――
このような結末を迎えるとわかっていたのなら、最初からディオンを連れて来たのだが、後悔は先に立たない。
ウィルは自分が置かれた状況を嘆くように溜息を付くと、パシっと頬を叩き自身に気合を入れ、ユフィールを背負って屋敷に連れて行くことにした。勿論、ユフィールは戸惑い驚く。
しかしこの場合、これしか方法がなかった。ユフィールは疲れて、走ることができない。一方ウィルは日頃の鍛錬の賜物か、殆んど疲れを感じていなかった。これなら、女性一人を背負って走ることが可能だ。
最初は頑張って歩くと言っていたユフィールであったが、ウィルの説明と熱意を受け入れ世話ってもらうことにした。彼女は背負われると同時に両腕をウィルの首に回し、抱き締めた。
「じゃあ、出発」
「宜しくお願いします」
「そんなことを言わなくていいよ」
「ですが……」
「別に、他人同士と言うわけでもないし。付き合いは、長いんだから。だから、気にしない」
其処で一度言葉を止めると、再度口を開こうとする。その時、ウィルは信じられない物を目撃してしまう。見間違いでなければ、彼の視線の中に飛び込んできたのはウィルとアルンの両親。とんでもない人物に会ってしまったと、ウィルは反射的に建物の物陰に隠れた。