ユーダリル

「どうしたのですか?」

「静かに! 父さんと母さんがいた」

 彼の言葉に、ユフィールは裏返った声音を出してしまう。彼女は一度もウィルとアルンの両親に会ったことはないが、ウィルの話と周囲の反応を見聞きしているので、どのような人物か想像できる。

 実の息子と周囲から恐れられている、旦那様と奥様。その噂の人物達が、自分達の近くにいる。

 恐怖心より好奇心の方が勝ったのか、ユフィールは身体を傾け物陰から恐れられている人物の顔を見ようとするが、上手く見ることができない。それどころか、ウィルに怒られてしまう。

「見付かったら、厄介なんだ。だから父さんと母さんがいなくなるまで、この場所に隠れている」

「す、すみません」

「しかし、どうしてこの場所に……」

 両親の性格を考えると、屋敷で寛ぎ自分の娘となったセシリアと話していると思った。しかし予想は見事に外れ、両親は街をフラフラと歩いている。できるものなら一箇所に止まって欲しいものだが、あの二人は気分で動くことが多いので願いが届くことは絶対にない。

 その後、何とかタイミングを見計らって二人は屋敷に戻った。勿論、帰宅が遅れたことでアルンの注意を受けるが、両親が泊まる場所を探してきたということで雷の落下は免れた。

 これで、全てが丸く治まったわけではない。宿での宿泊を気に入らない両親が、文句を言い出したのだ。

 これにより両親とアルンの喧嘩が勃発し、ウィルとセシリアとユフィール。それに、使用人達の頭痛の種と化す。その後、長時間の説得のお陰で何とか予約した場所での宿泊を受け入れてくれた。

 だが、両親が帰宅するまでの間、嵐が屋敷の中に吹き荒れ祝福ムードは明後日の方向にぶっ飛ぶ。

 そしてこの日のことが影響し、両親とアルンの関係がますます悪くなったということは言うまでもない。
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