ユーダリル
地上からの訪問者

 アルンとセシリアの結婚式から、10日が経過していた。今まで秘書としてアルンに接していたセシリアだったが、結婚後は秘書兼妻としてビシビシとアルンを鍛えていくのだった。

 流石、一流の秘書。セシリアが厳しく接しているので、会社はますます営業利益を伸ばし、重役を含め社員から喜ばれていた。

 それは、ウィルも同じだった。セシリアが義理の姉になったことにより、最強の盾となって護ってくれるのだから。

 その中で一番立ち居位置が変化したのは、ユフィールだろうか。姉の結婚によりアルンと義理の兄妹同士となり、更にウィルと身内同士になってしまったのだ。といって互いに血が繋がっているわけではないので、ウィルとの関係は自身の姉が結婚する前と何ら変わっていなかった。

 しかしウィルとの関係はそれでいいのだが、問題はアルンとの関係。アルンが発する無数のトゲが存在する独特なオーラは変化し、何処か丸くなっていた。これも身内になったことが影響しているのか、この変化に一番驚いていたのはユフィールだけではなくウィルだった。

 だが、アルンがユフィールに危害を加えなくなったことは喜ばしい。これで、心配の種が減るからだ。

「ねえ、ユフィール」

「何ですか?」

「兄貴、元気?」

「元気というか……やつれています」

「義姉さんに、ビシバシやられているんだ」

 ユフィールは今でも、ウィルの家の掃除を行なっていた。一時期、給料を貰って行なっていたが、今は自主的に家の中の掃除を行ない洗濯もしている。尚且つ、手料理も振る舞いウィルとディオンを喜ばしている。

 これに関して、ウィルは特に異論を唱えない。逆にユフィールが何でもやってくれるので、助かっていた。また実家の状況を聞くことができるので、彼女は大事な情報源でもあった。

 ウィルは今椅子に腰掛け、ギルドから手渡された資料に目を通していた。この資料は、今度の仕事内容が書かれている物。その為ユフィールと会話を行ないながらも、真剣な目付きで黙読していた。

 今回の仕事は過去の物を収拾するだけではなく、歴史的価値のある遺跡の調査も兼ね備えていた。何故なら、ユーダリルの歴史を調べに地上から考古学者がやって来るのだ。ウィルに与えられた仕事は、考古学者の案内と護衛。勿論、護衛に関してはウィルの専門外だ。
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