ユーダリル
一体、何をしているのか――
ウィルは首を傾げつつ、ディオンの側に歩いて行く。彼は、ディオンが昼寝をしていると思っていた。だが、ディオンは昼寝をしているわけではなく、鼻先に止まっている蝶と戯れていたのだ。
パカっと口を開くと同時に、蝶がヒラヒラと舞う。しかしディオンの鼻先が気に入っているのか、再び舞い降りる。すると再びディオンが口を開き、蝶が空中に舞い上がる。それが、何度も続く。
「ディオン」
その声にディオンはスクっと立ち上がると、瞳を輝かせながらウィルがいる方向に振り返り、トコトコと彼のもとへ歩いて行く。一方ディオンと戯れていた蝶は、ヒラヒラと何処かへ飛んでいってしまう。
「飛んでいったよ」
ウィルの言葉にディオンは蝶が飛んでいってしまった方向を一瞥するが、すぐに視線を戻す。ディオンにとって蝶より、ウィルの方が大好き。それに思いっきり甘えられると、期待していた。
尻尾をブルンブルンっと振り、顔を上下に振る。更に瞳をキラキラと輝かせ、全身で感情を表現する。ディオンの飛竜とは思えない可愛らしさにウィルは頭を撫でると、ゲーリーの所へ行くと告げた。
ディオンは、ゲーリーがどのような人物か知っている。またウィルと仲のいい人間とわかっているので、コクコクと頷く。
「行くと」
彼の言葉に甲高い声で短く鳴くと、ドコドコと足音をたて身体をグルっと回転させると尻をウィルの方向に向けしゃがみ込む。流石、ウィルの相棒。彼の短い言葉で、キビキビと動いた。
ウィルはディオンの背中に跨ると、片手で首の横を軽く叩く。その合図と同時にディオンは両翼を開くと、風を全身で受け空中に舞い上がる。そして優雅に翼をはためかせ、目的の場所へ飛んでいった。
「敷地内に降りるのは失礼だから、外に着陸だな。といって、お前が降りられる場所は……」
ウィルが一人暮らししている家からゲーリーの実家は、ディオンで飛ぶと数分の距離の位置にある。その為すぐに、ゲーリーの実家の上空に到着してしまう。だが、なかなかいい場所が見付からないので着陸ができない。
ウィルは腕組しつつ、地上に視線を向け着陸に適した場所を探していく。しかし、ディオンが降りられるいい場所が見付からない。別に、建物が密集しているわけではない。土地は十分にあるのだが、その殆んどが私有地なので勝手に降りるわけにはいかなかったのだ。