ユーダリル
暫く上空を浮遊し、着陸できる場所を探していく。すると広い場所ではないが、私有地ではない場所を発見する。その場所は細長い草が生え、長い日数人の手が入っていないことがわかった。
といって、ディオンが降りられない場所ではない。ウィルはディオンの頭をポンっと叩くと、降りて欲しい場所を指差す。主人の命令ディオンは頷き返すと、指で示された方向に向かい着陸の態勢を取る。
一度、着陸に失敗しているディオン。それは、実家の庭に突っ込んでしまった件だ。そのことがトラウマになっているのか、着陸は丁寧になっている。お陰で、ウィルの怪我も少ない。
「ご苦労様」
労いの言葉を掛け、ディオンの鼻先を撫でる。主人が褒めてくれたことにディオンは嬉しそうに鳴くと一緒に行きたいとせがむが、これから向かう場所にディオンを連れて行くことはできない。
ウィルの説得で納得したのか、ディオンは尻尾を左右に振り「早く帰って来て」と、全身で訴えていく。
可愛らしい相棒の訴えにウィルは軽く右手を上げ返事を返すと、草を踏み締め敷地外へ出て行った。
「さてと」
鉄製の門の前で、ウィルはどのようにゲーリーを呼び出すか考えていく。いつもであったらギルドに行けばいいのだが、仲間の情報で数日前から自宅でのんびりとしていると聞いているので、自宅にいるのは間違いない。
だが、事前に「行く」と言っていないので、相手はウィルが尋ねてくるというのは知らない。
相手は仕事仲間なので勝手口から堂々と敷地内に進入するという方法もあるが、下手すると不法侵入で捕まってしまう。このようなことで捕まってしまうと今後の仕事に影響し、尚且つ兄が煩い。
いや、それ以上に義理の姉となったセシリアに迷惑が行く。流石に、それは避けなければいけない。
「どうしようか」
これなら事前連絡をしておけば良かったのだが、ユフィールに言われるまで「ゲーリー」の名前が思い付かなかったのだから仕方がない。ウィルは腕を組み、いい方法がないか考えていく。
その時、若い女性の声音が響いた。ウィルは声が聞こえた方向に視線を向けると、誰が声を掛けてきたのか確かめる。その相手というのは、二十代前半のメイド服を着た女性だった。彼女は不信感たっぷりの視線を向け、屋敷に何か用事なのか身構えながら尋ねてきた。