ユーダリル
「ゲーリーに、会いに来た」
「事前に、お約束をしているのでしょうか」
「いや、していない」
ウィルの言葉に、ますますメイドの不信感が溜まっていく。相手は名前を名乗らず、ただ「ゲーリーに会いたい」と、言っている。勿論、主人の息子を怪しい人物に会わせるわけにはいかない。
メイドは丁寧な口調でそのことを伝えていくと、ウィルはポンっと手を叩き自分の名前を名乗った。
「ラヴィーダ家のお方なのですか!」
「そう。で、ゲーリーの仕事仲間なんだ。事前の約束はないけど、取り次いでくれると嬉しいんだけど」
しかし、メイドからの答えはすぐになかった。相手が本当の「ウィル・ラヴィーダ」かどうか、戸惑いの方が強いからだ。目の前の人物は偽者で、嘘の名前を名乗っているのではないか――と、疑いを持っていた。
といって本物であった場合、ラヴィーダ家の者との仲が悪くなってしまう。そして下手したら、クビになってしまう。
考えた結果、上の者に聞いてくるという結論に至る。メイドはウィルに対して深々と頭を垂れると、門の前で待っていて欲しいと言う。一方メイド自身は裏口へ行き、其処から敷地内へ入った。
「やっぱり、知らなかったか」
顔を覚えているのではないかと期待していたが、あのメイドは全くといっていいほど覚えていなかった。だとしたら、他のメイド達も覚えていない可能性が高い。だが、諦めるのはまだ早い。「ウィル・ラヴィーダ」と名乗っているので、其処で取次ぎができるかもしれない。
ウィルは門の前で、行ったり来たり。そして暇を持て余したのか、その場で運動をはじめる。一体、どれくらいの時間が経過したのか――なかなか、屋敷の中から偉い人が姿を見せない。
相手の反応に今回は駄目だったと判断したウィルは、ディオンがいる方向へ戻ろうとする。その時、敷地内から身形のいい五十代後半の男が二人のメイドを連れ此方にやって来た。男の姿にウィルは軽く頭を垂れると、彼がこの屋敷の執事だということを瞬時に判断する。
「お待たせしました」
恭しい態度で、男が一礼する。それに対しウィルも、同じように一礼する。予想通り、相手はこの屋敷の執事。執事はウィルをラヴィーダ家の住人と認めたのか屋敷の中に通すと、ゲーリーと対面させる。その瞬間ゲーリーは歓喜の声を上げ、ウィルを抱き締めたのだった。