ユーダリル
以前、洞窟の中で出会った狼といい今回の狐といい、ウィルは野生生物に好かれる体質を持っているようだ。
現在の状況を見たら、ディオンが嫉妬して狐に突進してくる可能性が高い。それだけ、狐はウィルに懐いていた。
可愛らしい狐の姿に、ほのぼのとした気持ちで戯れるウィル。しかしそれにより、シュナイダーの監視を怠ってしまう。数分間目を離してしまった影響で、シュナイダーが何処かへ行ってしまっていた。
シュナイダーが消えてしまったことに焦りを覚えたウィルは、慌てて立ち上がると周囲に視線を走らせ必死にシュナイダーの姿を捜すが、全く見当たらない。更に、ゲーリーの姿もない。
多分、二人とも熱中してしまって周囲が見えなくなってしまったのだろう。シュナイダーはわからなくもないが、ゲーリーは仕事なので勝手に何処かへ行ってしまうのは困ってしまう。
といって、愚痴っている場合ではない。ウィルは足下で戯れている狐の身体を両手で掴むと、自分が腰掛けていた石の上にちょこんと置き、この場所で大人しくしているように優しく言った。
すると気持ちが伝わったのか、狐は軽く頭を垂らすと静かにウィルが帰ってくるのを待つ。
物分りがいい狐の頭を軽く撫でると、ウィルは先にゲーリーの姿を捜す。真っ先に依頼人のシュナイダーを捜した方がいいのだが、何かトラブルに巻き込まれていた場合、一人で対処するのは難しい。
あのような性格の持ち主だが、ゲーリーの実力は認めている。だからこそ、互いにいいコンビとなって仕事をしている。それに、二人で真面目に仕事を行なわないとギルドマスターから何と言われるか。ギルドマスターの顔が脳裏を過ぎった瞬間、ブルっと身体が震えた。
ウィルは自分自身に気合を入れると、駆け足でゲーリーの姿を捜す。すると、思った以上に早く捜し出せた。
「見付けた」
「な、何だ」
「依頼人が、いなくなった」
「な、何だと」
「詰め寄るな」
ゲーリーの言葉は「何故、きちんと見張っていなかったのか」という、説教半分であった。それに対しウィルは、何かが切れる音が耳に響いた。そもそも、勝手に何処かに行ってしまったゲーリーが悪い。逆にウィルの方が詰め寄ると、グチグチと説教をはじめていった。