ユーダリル
すると、先程ウィルに懐いていた狐がトコトコと三人のもとへやって来る。そしてウィルの顔を見た瞬間、彼の前まで歩いて行きちょこんっと可愛らしく尻を地面に付け視線を上げていた。
「あっ! お前は……」
「シュナイダーを捜す」ということで頭がいっぱいになり、狐を待たせていたことをスッカリ忘れてしまっていた。狐の方も待ちくたびれてしまったのか、このように自分からウィルを捜し出した。
やっと見付かったという思いが強いのか、クリクリとした瞳をウルウルとさせウィルを見詰める。その姿にウィルは狐の前にしゃがみ込むと、すまないという気持ちを含め頭を撫でてやった。
「動物に好かれやすいね」
「かもしれない」
ウィルに懐いている狐の姿に、ゲーリーが感心してしまう。しかし、このように動物に好かれる人間も珍しい。シュナイダーは興味いっぱいの視線をウィルと狐の交互に向けると、何を思ったのか狐の身体を抱き上げた。
突然抱き上げられたことに、狐は嫌がり身体を乱暴に動かす。それでも逃れられないとわかったのか、シュナイダーの親指を噛む。刹那、シュナイダーの甲高い悲鳴が響き渡った。
「大丈夫ですか!」
「うお! 逃げた」
狐に親指を噛まれたことに、シュナイダーは抱き上げていた狐を反射的に放す。一方解放された狐は、相当怖い思いをしたのだろう飛んで逃げるように、何処かへ行ってしまった。
「手当てをします」
「乱暴な狐だ」
「いきなり抱き締めるからですよ」
「野生生物は、デリケートだからね」
「ゲーリーは、身を持って知っているよね」
「まあ……な」
例の件で、野生生物のデリケートな一面と凶暴さを身を持って学習したゲーリーは、明後日の方向に視線を向け震えた声音で返事を返す。あの時の出来事は、一種のトラウマ状態になっている。
ゲーリーの態度に苦笑いを浮かべたウィルは、腰のポーチの中から怪我の治療に使用する道具を取り出す。噛み付かれた箇所は幸い、深い傷ではない。それに歯形が残った程度で、血は出ていなかった。この程度なら薬を塗る程度で大丈夫と判断したウィルは、小瓶に入れられた薬を塗っていく。