ユーダリル

「お元気で」

 逃げるように立ち去るお仲間さんに、ユフィールは手を振り見送る。平和そのものの光景に、ウィルは何も言えなかった。もし逃がしたことによって、アルンに何かがあったら――考えるだけで恐ろしい。

「ウ、ウィル様……」

「大丈夫。大丈夫だから。ユフィールがやったとこは、間違いではないよ。はあ、兄貴が怖いな」

 自分が行った行為によって、ウィルが元気をなくしてしまった。そのことに動揺を隠せないユフィールは、謝るしかない。大粒の涙を浮かべるユフィールの姿に、近くを歩く者達は「別れ話」と勘違いし、冷たい視線を向けてくる。中には「最悪」という言葉を言う者もいた。

「泣かないでほしいな」

「で、でも……」

「兄貴は、強いから平気だよ。じゃあ、帰ろうか。いつまでも、此処にはいるわけにはいかないし」

「は、はい……」

 全身に突き刺さるような視線にウィルは、ユフィールの手を握ると逃げるように立ち去った。

 運命のお茶会が開始される。

 そのお茶会は、平和に終わることはない。

 何故なら、相手がアルンだから。


◇◆◇◆◇◆


 屋敷に戻ったウィルは、例の一件についてアルンに報告を行っていた。しかしその顔は真っ青で、貧血で倒れる寸前であった。それを黙って聞いていたアルンは微かに眉を動かすと、側に控えていたセシリアに声を掛ける。それは呆れ半分という雰囲気で、肩を竦めている。

「できた妹だ」

「す、すみません」

「いや、ユフィールが悪いわけではない。悪いのは、お前だ。何故、その相手を尋問しなかったのだ」

 無茶苦茶な内容であったが、ウィルは反論することはできないでいた。確かにアルンが言うようにユフィールの言葉を無視して、相手を殴り倒すことは可能であったが「ピーマン地獄に負けた」とは、言えない。言ったところで、どのような反応をされるかは目に見えていた。
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