ユーダリル

「では、またご一緒に……」

「約束するよ」

「嬉しいです」

 彼の言葉に、メイド達が一斉に黄色い悲鳴が上がる。

 流石、メイド達に人気のウィル。これも彼の人徳がなせる業であった。

 ウィルはメイド達に別れの挨拶を言うと、セシリアが使用している部屋へ向かう。

 彼の予想ではこの時間帯、部屋で仕事を行なっているはず。

 その予想は、正しかった。

 ドアをノックすると、部屋の中かセシリアの声音が響いたのだ。

 ウィルは彼女の声音に返事を返すと、部屋に入っていいか尋ねた。

「どうぞ」

「義姉さんの顔を見に来た」

「嬉しいわ」

 アルンと結婚しウィルの義姉になったので、以前と違い敬語を用いることは止めていた。

 また優しさも増し、彼にとってはいい義姉になっている。

 だからこそ、このように顔を見に来る。
「お茶は?」

「飲む」

「じゃあ、メイドを呼ぶわ」

 その言葉に続き、セシリアはいつも机の上に置いてあるベルを探す。

 しかし今日は、何処にも見当たらない。

 無くなったことに気付いたウィルは一緒に探すが、やはり見付からなかった。

「じゃあ、メイドに言いに行って来るよ」

「あら、いいのに」

「義姉さんは、仕事をしないと。結婚して兄貴は真面目になったらしいけど、仕事は溜まっているようだし」

 一瞥したのは、セシリアが仕事をしている机の上。

 其処には大量の書類が山積みになっており、どれだけ仕事が溜まっているかということを教える。

 義弟の指摘にセシリアは苦笑すると、一言礼を言った。

「紅茶とコーヒーどっちがいい?」

「コーヒーでお願い。仕事で疲れているから、苦いコーヒーでスッキリしたいと思っているの」

「了解」

 義姉に軽い口調で返事を返すと、部屋から出て行きメイドに飲み物を用意して欲しいと頼みに行く。

 その時セシリアは、ベルを机の引き出しの一番下に入れてあったことを思い出す。

 慌ててウィルに声を掛けようと部屋から飛び出るが、もうウィルの姿は何処にもなかった。


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