ユーダリル
「兄貴は、メイド達に嫌われている」
「本当に、嫌ってはいないわ。嫌っているとしたら、彼女達は今の仕事を辞めているでしょうね」
「……確かに」
セシリアの言葉に、ウィルはコーヒーを飲みつつ納得した表情を作る。
彼女達が本気でアルンを嫌っているのなら、その日に仕事を辞め別の仕事場所を探している。
それに、生き生きと仕事をしている姿が印象的。
また、あのように見えてアルンは優しい一面を持っているという。
だからこそセシリアは秘書として働き、彼の妻になることを選んだ。
惚気半分の言葉であったが、ウィルは満面の笑みを浮かべていた。
「見直した」
「立派なのよ」
「そうみたい」
アルンの新たなる一面を知ったウィルは、ちょっとだけ実兄を尊敬してみようと思う。
しかし、全ての面で尊敬するというのは無理が近い。
やはり、悪い面に目が行ってしまうからだ。
ウィルはコーヒーを一気に飲み干すと、ウィルは義姉に向かいアルンを今後とも宜しくということを伝える。
勿論、セシリアは快く了承してくれた。
これも、可愛い義弟の頼みだから。
「仕事に行ってくるよ」
「気を付けてね」
「たまに、家に戻って来るよ」
「珍しいわね」
「兄貴が義姉さんと結婚したから」
何とも正直な答えに、セシリアは口許に手を当てクスクスと笑い出す。だが、それだけ自分のことを信頼してくれているという証拠。恥ずかしく照れくさくて――でも、嬉しかった。
「その時は、事前に連絡してね」
「わかった」
「やっぱり、兄貴より言い易い」
「でも、たまには言った方がいいわよ」
それに対し、ウィルは無言で頷く。
アルンを苦手としているが、二人は血の繋がった兄弟。
長く無視するわけにもいかず、コミュニケーションも取らないといけない。
それを言いたいのだろう、セシリアは仕事に行くウィルにその点を注意した。
勿論、ウィルもわかっている。
照れを隠すようにポリポリと頬を掻くと、誕生日になったら何か贈ると約束した。