ユーダリル

 トレジャーハンターのギルドがある場所は、人通りの多い道に面している。

 その為、巨体のディオンは邪魔になってしまう。

 突然現れた飛竜の姿に、行き交う人々は足を止めディオンに視線を向ける。

 中には指で示し、隣の人と会話をする者もいた。

 その時、一人の子供が「ディオン」と呼び、騒ぎ出す。

 子供の声に人々は飛竜の正体がウィルの相棒とわかり、全員がクスクスと笑い出す。

 流石、ウィルの相棒。

 ディオンのことも有名で、同時に大人しい生き物と知っているので安心する。

 一人と一匹の戯れは、周囲を和ませる。

 だが、くっつかれているウィルの方は堪らなかった。

「離れる」

 と言っても、ディオンが離れるわけがない。

 寂しい思いをしていたディオンにとって、ウィルと離れたくないからだ。

 しかし、これでは目的の場所へ行くことができない。

 ウィルはポリポリと頬を掻くと、ポンっとディオンの頭を叩き「一緒に行くか?」と、尋ねた。

 勿論、ディオンが拒否するわけがない。

 ディオンはウィルから離れると、並ぶようにしてトコトコと歩き出す。

 だが、飛竜は歩くのが苦手。

 最初は頑張って歩いていたが、途中で翼を羽ばたかせ少しだけ浮き上がる形でついていった。

「ディオン」

 名前を呼ばれ、ディオンは反射的にウィルの顔を見詰める。

 更に名前を呼ばれて嬉しかったのか、ブルブルと尻尾を振り出した。

 その時、事件が発生する。

 何と、通行人に尻尾がぶつかってしまったのだ。

「す、すみません」

「だ、大丈夫です」

 互いに言い合う言葉は、お決まりのもの。

 しかし、その後が違った。

 二人は互いの顔を見合うと、大声を出し合う。

 そう、ディオンの尻尾がぶつかった相手というのは、ゲーリーだった。

「何でお前が」

「それはこっちの台詞だよ」

「ディオンの尻尾が当たったことは謝るよ。でも、これだけの大きい身体なんだから気付かないか?」

 彼の質問に対しゲーリーは、一枚の紙を取り出し目の前に差し出す。

 その紙に書かれている文字は一言。

 「ギルドに来い」簡略的な文章であったが、これを誰が書いたのかすぐに判断できた。

 この文字は、何度も見たことがある。

 そう、文字を書いた主はギルドマスターだ。


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