ユーダリル

「その相手は、お前の同業者なんだろ?」

「そうだけど」

「よし、ギルドに圧力を掛けるか」

 アルンの圧力攻撃に、ウィルは言葉を失う。そのようなことをされると、ウィルは仕事がしにくい。それに、問題となる人物は一人。その人物の為に大勢に、迷惑を掛けるわけにはいかない。ウィルは首を左右に振ると、仕事は失いたくないので止めてほしいと訴えかける。

「冗談だ」

「アルン様の冗談は、冗談とは思えません。毎回ながら、ウィル様が可哀想です。少しは、お止め下さい」

「本当に、ウィルのことになると性格が変わるな」

 セシリアにそのように言われると、アルンは何も言えなくなってしまう。それは上司と秘書という関係とは別に、恋人同士という繋がりが強かったからだ。それにアルンは、温厚なセシリアの裏の一面を知っている。そう、あれは実に恐ろしい。また、反論は恐ろしい結末を招く。

 自身を庇ってくれるセシリアにウィルは「もっと言ってほしいと」と願うも、それ以上の言葉が続けられることはなかった。その理由として、大事なお茶会の開催が迫っているからだ。今、例の件について追求している暇はない。何より、アルンはお茶会を楽しみにしている。

「アルン様。そろそろ、皆様が……」

「わかっている。さて、相手はどのように出てくるか」

「武力行使は、お止め下さい」

「それをやったら、後々が面倒だ」

「勿論です」

「セシリアは、厳しいな」

 そう言うと椅子から腰を上げ、部屋から出て行く。

 ふと、アルンが横を通り過ぎた瞬間、ウィルは嫌な物を見てしまう。それは、お茶会に不似合いな表情。そう、ほくそ笑んでいた。それを見た瞬間、ウィルは全身から血が引いていく感じがした。

 アルンがこのような表情をする時は、決まって何かが起こる。そして、問答無用の圧力攻撃が繰り広げられるだろう。

 お茶会が荒れる。

 ウィルは、何も言えなかった。ただアルンを見送り、無事にお茶会が終了することを願うだけであった。それと同時に、客人の身を心配してしまう。お茶会ということだから、其処に武器が登場するということは考えにくいが、相手はアルン。時として、予想外のことが起きる。
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