ユーダリル

 そう、期待はできない。




 ウィルが恐怖心を抱いているその頃、ユフィールはメイド仲間に買い物の時に起こった出来事について聞かれていた。顔を赤らめながら話す姿に、全員が黄色い悲鳴を上げ妙にテンションが高い。

 危険が迫っている時に、好きな人に助けてもらった。これこそ、乙女の憧れ。それを体験したユフィールは、幸せ者といえよう。これによりメイド仲間は、この二人は運命の相手同士と確信する。そして何よりウィルが高価なプレゼントを渡したという出来事は、大きい。

「良かったわね」

「で、でも……」

「好意は、受け取っておくものね」

「そうそう。ユフィールのことが好きだから、渡してくれたのよ。だから、貰っておきなさい」

 その言葉に、ユフィールの顔が更に赤く染まってしまう。確かに、両者は付き合っている。しかし恋愛に初なユフィールは、全ての言動に一喜一憂してしまう。それに笑われて恥ずかしいという感情と、好きだという想い。その両方が合わさり、耳まで真っ赤になっていた。

「そのリボン、素敵よ」

 ユフィールの髪を縛っていたのは、プレゼントで貰ったリボンであった。本当は大切に仕舞っておきたいと思っていたのだが、メイド仲間に促される形で身に付けることになった。お陰で先程からからかわれていたが、ユフィールは悪い気はしない。寧ろ、恥ずかしかった。

「私も、何か欲しいわ」

「愛は、形で表さないと」

「今度、ねだってみましょう」

 和気藹々と話が繰り広げられていると、メイド長のミランダが休憩部屋に入ってきた。その姿にお茶会が開かれることを思い出し、ユフィールを含めてメイド達は慌てて仕事に取り掛かる。

「早くしなさい。お客様が到着するわよ」

「はい!」

 ミランダの言葉に、一斉に返事が返された。そして、急いで部屋を出て行くメイド達。その姿に溜息をつくと、ミランダはユフィールを呼び止める。何でもウィルの世話をしてほしいということであったが、最初はどのような意味合いなのか理解することができず、思わず聞き返してしまう。
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