ユーダリル
「お世話をするのよ。聞こえなかったかしら?」
「わ、私が……」
「そうよ。わかりましたか?」
「は、はい」
ご指名という立場に、ユフィールは固まってしまう。その姿にメイド仲間から声援が飛ぶも、ミランダの一言がそれを止める。世話といわれても何をすべきかわからないユフィールは、おろおろしてしまう。するとミランダは「食事を作ってくれればいい」と、教えてくれた。
「ですが、食事は……」
食事を作るのは、メイドの仕事ではない。それ専用の人間がいるので、メイドはできあがった食事を運べばいい。しかし、今回は違う。直々の指名により、ユフィールが作らなければいけない。何故、そのようになってしまったのか。思わず、頭の中が真っ白になってしまう。
「何故、私に……」
「アルン様が仰ったからよ」
意外な人物の名前に、ユフィールを含めメイド達を驚かせた。ウィルを溺愛しているブラコンアルンが、何故このようなことを頼むのか。この件で二人の仲が今以上に縮まったら、悲しむのはアルン自身。いつもは何かにつけて妨害しているというのに、この変化はある意味で恐ろしい。
この話には、裏があった。本当の依頼主は、姉のセシリア。ウィルと付き合っているのに、アルンが妨害してくる。それが不憫に思ったのか、セシリアが協力してくれたという。その説明に、ユフィールは顔を赤らめてしまう。やはりこの恋愛には、思った以上に味方が多い。
セシリアの心遣いにユフィールは無言で頷くと、この屋敷で働いている者達の優しさを感じた。皆、二人が早く結婚してほしいと思っている。唯一反対しているのは、アルンだけ。雇い主の弟とメイドの恋物語。どうやら、周囲は恋愛小説を楽しむような感覚でいるようだ。
「では、頼みましたよ」
それだけを言い残すと、ミランダは準備の進行状況を確かめに向かった。そして一人になったユフィールは伝えられた内容に、心臓を高鳴らしてしまう。好きな人に、手作り料理を作る。嬉しい反面、落ち着くことができなかった。このことに関しては、とても荷が重い。
そう、今まで料理を作った経験を持っていないからだ。それにより、どうすればいいかとパニック寸前に陥ってしまう。赤く染まった顔を抑えつつ、気持ちが落ち着いてくるのを待つ。しかし、考えれば考えるほど頬が熱を持ち、トマトのように真っ赤になってしまう。