ユーダリル
このままではいられない。何より、ウィルを待たせてしまう。ユフィールは自分自身に気合を入れると、厨房へと向かった。
厨房からは、美味しいそうな匂いが漂っていた。どうやら焼き菓子を作っているのだろう、調理器具がぶつかる音に、慌しい声が聞こえてきた。それにより、中に入るタイミングが掴めない。
しかし中に入らなければ、料理を作ることができない。それにウィルは、料理ができるのを待っている。もしこのまま時間が経過していったら、ウィルは怒ってしまうだろう。そして、二人の関係が悪くなってしまう。ユフィールにとってそれは、最悪な結末であった。
「駄目!」
その考えを振り払うかのように、大声で叫んでしまう。するとその声によって仕事をしていた料理人が、ユフィールの存在に気付いた。一人の料理人が、真っ青な表情をしているユフィールに声を掛けてくる。それは心配するというより、不思議なものに声を掛けるに等しかった。
「どうしたの?」
「そ、その……」
「ああ、ウィル様の食事か。どうぞ、入りな」
どうやら話を通してあったらしく、すんなりと厨房の中へと入れてくれた。滅多に入ることのない厨房。ユフィールは様々な形の調理器具を見つめていると、ポンっと肩を叩かれた。
「頑張れ」
「そう、応援している」
だが逆に、それが緊張を招いてしまう。身体はガチガチに固まってしまい、自由に動かすことができない。すると厨房にいた全員が、微笑ましいものを見るような視線を向けてきた。どうやら屋敷で働いている全員が二人の未来に興味があるらしく、快く協力してくれる。
調理スペースの一部を間借りしたユフィールは、厨房の隅に置かれている食材を眺めつつ、何を作ろうか考えはじめた。料理が得意とまではいかないが、それなりに美味しく作れる。
だが、今回の場合は自信が持てないでいた。
失敗したら――作る前から、そのようなことを考えてしまう。ユフィールは籠の中に入っていた卵に視線を向けると、オムレツを作ることにした。その他は、パンと飲み物を用意すればいい。それは簡単な献立であったが、今はこれで限界。内容が決まれば、後は作るだけ。