ユーダリル
オムレツを作る為に卵に手を伸ばした瞬間、緊張のあまり卵を落としてしまう。それも、立て続けに、二個・三個と――ユフィールは慌てて雑巾を手に取ると、卵を落としたことがバレないように、綺麗に拭いていく。
料理を作る前の一仕事に、ますます緊張してしまう。
頑張らなければ――そう思ったのは、過去の出来事。今は、貧血で倒れる寸前であった。助けてもらうという方法もあったが「手作り料理」という気持ちから、それを選択するわけにはいかない。
ユフィールは卵で汚れた雑巾を洗いつつ、溜息をつく。それは自分の情けない一面と、本番に弱い精神力を嘆いたのだ。メイドとしての仕事は、先輩に迷惑を掛けない程度にできる。しかし、肝心なところではミスが多い。このように緊張して、卵を割ってしまうからだ。
上手く作らないと。
掃除を終え綺麗に手を洗ったユフィールは、美味しいオムレツを作ろうと奮闘する。だが、最初から躓いてしまう。それは力を入れすぎて、卵の殻が混入してしまった。それにより、ひとつひとつ丁寧に拾っていく。そして全て拾い終えると、更に新しい卵を割っていく。
菜箸で、丁寧に卵を混ぜ合わせる。それに続き、砂糖や塩で味の調整をしていった。次は、混ぜ合わせた卵を焼く。だが、これにも問題が発生してしまう。それは、火力がわからない。
(……ど、どうしよう)
それにより出来上がったオムレツは、グチャグチャに近い仕上がりになってしまう。ユフィールは固焼きのきちんとした形のオムレツを作る予定だったが、仕上がりは最悪だった。
それなら、ジュースで挽回するしかない。もぎたてのオレンジを手に取ると、綺麗に洗い包丁で二つにする。そして、果汁だけを搾りはじめた。
流石に、これは失敗することはない。それにより、せっせと大量のオレンジを搾っていった。
それにより手が黄色く染まってしまうが、ウィルの為にとユフィールは懸命に頑張っていく。一通り絞り終えると手を洗いつつ、他に何かないかキッチンの周辺に視線を走らせていく。
「あ、あの……パンは、ありますか?」
「あるよ。ちょっと、待っていな」
ユフィールの言葉に相手は、バケットに入れられたパンを持ってきた。それは、バターロールにクロワッサン。または硬く焼かれた丸いパンに、豆が入れられたパンもあった。バケットから漂う香ばしい香りは、食欲をそそる。撮み食いが可能であったら、ユフィールは食べていた。