ユーダリル

「全部、持っていっていいよ」

「本当ですか。有難うございます」

 優しい心遣いに感謝をしつつ、ユフィールはトレイの上に料理を乗せるとウィルが待つ部屋に向かった。

 そしてその後姿に、声援が送られた。


◇◆◇◆◇◆


 その頃ウィルは自室で仕事を行っていたが、仕事といってもそれは雑用。つまり、アルンから押し付けられたモノであった。しかしそれをつき返すわけにもいかず、ブツブツと文句を言いつつ、帳簿にペンを走らせる。

 仕事の内容――それは、資金の計算である。

 本来これはセシリアの仕事であったのだが、彼女はアルンと共にお茶会に参加しているので仕事をすることはできない。それなら参加せずに仕事を行えばいいと思ってしまうが、アルンを一人にすることは危険。セシリアという壁がいなければ、何を仕出かすかわからない。

 だからこそウィルがこのように仕事を手伝っているのだが、これほど溜め込むとは――これも、アルンの仕事に対するいい加減な一面が関係している。やり手の実業家と表ではそのように見られているが、裏は全く違う。秘書のセシリアがいなければ、真面目に仕事を行わない。

 このような人物が圧力を掛け、気に入らない場所を潰しているのだから困ったもの。もし裏の顔を知ったら、泣き叫ぶのは間違いない。そして多くの者が一致団結し歯向かうが、敵いはしない。

 やはりどのように足掻いても、アルンが勝ってしまう。負けるということを覚えれば少しは変わると思われるが、いかんせん周囲が弱すぎる。よって、アルンに「負け」という不名誉なものは付かない。

「くそ! こんなに溜めやがって」

 帳簿の厚さは、二十センチ以上。これだけの量を溜めていたということは、かなり不真面目な証拠。ウィルは桁の多い計算に両手で頭を掻くと、思わずペンを投げ捨てる。そして、大きく伸びをした。何故、兄の手伝いをしないといけないのか。資金提供者という立場で命令しているのなら、御門違い。

 このようなことを弟に任せている時点で、経営者の自覚がなさすぎる。その時、扉をノックする音が部屋に響く。ウィルは廊下にいる人物に中に入るように伝えると椅子から腰を上げ、凝り固まった筋肉を解すように運動をはじめる。聞き覚えのある声と同時に、扉が開いた。ウィルはその声に反応するかのように視線を相手に向けると、驚いた表情を作る。
< 41 / 359 >

この作品をシェア

pagetop