ユーダリル
「で、それは何?」
「護身用ですわ」
笑いながら説明するそれは、フライパンだった。その他のメイドの手には鍋蓋や麺棒・泡だて器。中には、モップを担ぐメイドの姿もあった。彼女達の戦闘スタイルに、戦う気満々と知る。
「はっ! ウィル様、敵です」
「此処は、私達にお任せください」
メイド達は、ウィルを守るように壁を作る。
見れば先程の男が、ふらついた足取りで此方に近づいてきている。手に刺さっていたフォークが見当たらない。どうやら痛みに耐え、抜いてしまったようだ。手に巻かれているのは、血によって赤く染まった布。その痛々しい姿に同情してしまうが、誰一人として心配する様子はない。そう、ラヴィーダ家で働くメイド達は、敵と認識した相手に情けをかけるようなことはしない。
「ユフィールのことお願い」
「了解しました。ウィル様、お気をつけて」
「あんな奴、ぶっ飛ばしてみますね」
緊張が漂う現場だというのに、メイド達の口調は軽かった。どうやら危機的状況に慣れてしまったらしく、全員が笑っていた。頼もしい味方にウィルは無言で頷くと、アルンのもとに向かう。
ウィルが勝手口から中庭に出ようとした瞬間、男の悲鳴がこだまする。それに続き、鈍い音が響く。どうやらメイド達に痛めつけられているのだろう、女性と思って甘く見るのは大間違い。ラヴィーダ家のメイドの中には、ユーダリルを守る警備兵と互角に戦える人物がいたりする。
痛そうな音が連続して続く。すると、急に音が消えた。この瞬間、男の敗北が決定するが、メイド達は攻撃を止めることはしない。悪い者は、徹底的に。その為、再び鈍い音が響く。
(ご愁傷様)
だが、男の心配をする暇などない。ウィルは、アルンの様子を見に行かなければいけないからだ。
其処で、アルンのいつもの“おいた”を目撃する。
緊迫した状況が続く中庭。しかしアルンとセシリアは普段の表情を崩さず、目の前にいる人物を見詰めていた。アルンは優雅に紅茶を飲みつつ、冷静な態度を取る。一方セシリアは無表情のまま、ことの終結を待つ。唯一違うのは、アルンに敵対している人物であった。