ユーダリル
「今頃、お前の弟は――」
「返り討ちに、遭っているだろうね」
「何?」
「危機管理が薄いということだよ」
訳のわからない内容に、男の眉が動く。しかしその意味は、すくに判明した。そう、ウィルが此方に向かって、駆けてきたからだ。無傷のウィルの姿に、男は動揺を隠しきれずにいた。
「お前に仕向けられた奴はどうした?」
「あの人なら、メイド達にボコボコにされたと思う」
「な、何だと」
信じられない内容に、男は口を開いたまま固まってしまう。男が仕向けた者は、雇っている中では最強と謳われた人物。その者がメイドにやられたとは、俄かに信じられなかった。だが、ウィルは傷ひとつ負っていない。その姿から強ち間違いではなく、男は眩暈を覚えた。
「兄貴の方は?」
「最近の奴等は、なっておらん」
そう言うと、自身の横を見るように促す。
ウィルは覗き込むようにアルンが示した方向に視線を向けると、其処には数人の男がうつ伏せで倒れていた。どうやらアルンと戦って、気絶させられた者達だろう。アルンは、敵に対して容赦など行わない。相手が根を上げるまで徹底的に痛めつけ、二度と歯向かわないようにする。
毎回ながら、兄の行動に苦笑いしかでない。そう、アルンは仕方ないという理由で戦うわけではない。
彼の場合「面白い」という感覚で、痛めつけている。
「兄貴は、容赦しないね」
「容赦は、必要ない」
「兄貴らしい言葉だよ」
「く、くそ……毎回、我々の……」
連れてきた護衛役を全滅させられたというのに男は強気に出るが、勝ち目はない。それに、アルンに逆らえばどうかってしまうかはわかっているはずだが、微かな望みを掛けての奇襲戦は無駄に終わった。
「貴方の会社がどうなろうと、此方は関係ありません。職を失った者達は、此方でまとめて面倒を見るのでご安心ください」
爽やかな笑顔で、脅しにかかるアルン。その人畜無害とも取れる笑みに、男の背中に冷たいもが流れ落ちた。この笑いをした時、アルンが莫大な権力を使い相手の会社を潰しに掛かる。