ユーダリル
その合図が今、この場でされた。
男は全身から力が抜け、その場に座り込んでしまう。そう、数日後この男は文無しとなる。
「兄貴、力を使いすぎだと思うな」
「ビシネスは戦いだ。相手に情けなどいらない」
「まあ、兄貴を見ているとそう思えるね」
ウィルに納得してもらえたことが嬉しいのか、満足そうな表情を見せる。アルンは、過保護な兄として多くの者に知られている。無論、地面に座り込んでいる男もそのことを知っていた。だからアキレス腱となるウィルを狙う作戦に出たが、メイドにやられるとは予想外。
この件により、ラヴィーダ家で働いている者達にも注意を払わなければいけなくなってしまった。
「ところで、ひとつ質問」
「何だ」
「お茶会って、これで終わり? いつもなら、大人数でやっていると思ったから。それとも、兄貴が全部潰した?」
「毎回、そのようなことはしない」
痛いところを突かれたのか、アルンの額には汗が滲んでいた。
ウィルは気付かなかったが、隣にいたセシリアだけは気付いている。それに、毎回のお茶会は同席。
アルンの行動は、知り尽くしている。
「そうなんだ、安心したよ。でも、敵が多いのは確かだね」
「まったく、煩くて仕方がない」
言葉と共に、顔を真っ青にし放心状態の男を見詰める。哀れな姿であるが、アルンは手を差し伸べてはくれない。下で黙々と働く社員には優しいが、上でふんぞり返っている者達には厳しい。
アルンが経営している会社の社員は、皆アルンを尊敬している。中にはそれを目的とし、他社から転職をしてくる者もいるらしい。しかし、ウィルに言わせれば「社員は、見る目がない」という意見になる。このような姿を見れば、尊敬の対象も明後日の方向にぶっ飛んでしまう。
「他人には、厳しいと思ったよ」
「ふっ! 弱者には、優しいさ」
「じゃあ、あれは何?」
ウィルが指差した方向には、気絶し倒れている男達の姿があった。相当なショックを与えたのだろう、ピクピクと痙攣している者までいる。だが、アルンは答えようとはしない。ただ紅茶を楽しみ、今後のことを考えていた。