ユーダリル

 しかし、それだけではない。この遺跡は幼い頃、母親に連れて来られた――いや正しくは、連れて行かれた場所。その時の記憶は少ししか残っていないが、思い出す度に懐かしさが込み上げてくる。

 ウィルの母親クレアは、有名なトレジャーハンターとして名前が知られていた。長男のアルンより次男のウィルにその才能を見出したクレアは、小さい頃から様々な技術と知識を教え込んだという。それにより四歳で、実家の鍵明けを普通にできるようになってしまった。

 無論、アルンの雷が落ちたという。

(久々に、行ってみようかな)

 急に懐かしさが込み上げ、思い出の場所に行ってみようと計画を立てる。だがその前に仕事を終わらせ、アルンに報告をしなければいけない。仕事を行う前に、必ず目的地を報告する。

 これが、アルンとの約束であった。どのような意味合いで報告するのかいまいちわからないウィルであったが、周囲はその意味を知っていた。つまり、ウィルが何処にいるのか知りたいのだ。

 心配性と過保護。

 そろそろ――いや、とっくに弟離れをしなくてはいけない年齢であったが、年々それが悪化していくので、治る見込みがない。それなら、ウィルがアルンに近付かなければいいだろう。

 そうした場合、屋敷で働いている人間は迷惑をかけてしまう。アルンのとばっちりは、強力であった。毎日のようにウィルのことを心配していると、セシリアから聞いたことがあったが、アルンの強烈なブラコンを知らないので、その時は笑って聞き流してしまったという。

 ウィルに自覚がない――それがアルンのブラコン要素を強くしてしまっているのだが、それさえウィルはわからない。

「おい、終わったか?」

 床に座り休憩をしていると、男の声が響き渡った。ウィルは間延びした声で返事を返すと、まだ終わっていないということを告げた。この仕事を頼まれて、まだ一時間も経過していない。それなのにこのような短時間で終わらせる人物など、掃除慣れした人間くらいだろう。

「お前に、客が来ている」

「客?」

 不思議そうな声音を発しつつ、ウィルは本の隙間から顔を覗かせる。このような場所に訪ねて来る人物など、限られた人物しかいない。それにその者達は屋敷で働いている人間で、態々ギルドまで訪れることは滅多にない。だから仕事の依頼か、その関係者というところだろう。
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