ユーダリル
「なら、お願いします」
「他の者で、いいだろ?」
「心優しいお兄様は、弟の為なら何でもやると思いました」
普段のセシリアから考えられない言葉の数々に、アルンを含めユフィールも驚いていた。流石にそのように言われたら、アルンは諦めるしかない。「弟の為」この言葉には、弱かった。
椅子から腰を上げると、ユフィールの目の前に行く。その瞬間、威圧たっぷりの視線を向けた。言葉では認めていても、心の中は違う。それが表れた視線は、ユフィールを突き刺す。
「妹を虐めないでください」
漂う殺気にセシリアは、低音の声音で脅しにかかる。アルンのブラコン同様、セシリアは妹のことを可愛がっていた。俗に言う「シスコン」とまではいかないが、それに近いものがあるのは間違いない。
「最近、変わったな」
「いえ、普通です。ただ、アルン様の性格を思ってのことです」
その瞬間、セシリアの目が怪しく光る。どうやら、アルンを脅すことに面白さを覚えたようだ。驚くアルンに、固まるユフィール。セシリアの変化は、大勢の人間を困惑させるものであった。
◇◆◇◆◇◆
その頃ウィルは、大きな溜息をついていた。ギルドマスターの八つ当たりに激しく体力を消耗し、動けないでいた。八つ当たりは、ギルドマスターの得意技。反論すれば、倍になって返ってくる。
耐えるしかない――機嫌が悪いギルドマスターに捕まった場合、この選択肢を選ぶことが約束事になっている。ウィルはそれを実行したが、流石に耐えられることにも限界はある。
「デ、ディオン。年寄りの説教は、嫌なものだね」
再び溜息をつくと、肩を竦める。一方ディオンはウィルの言葉を理解したのか首を縦に振り、フンっと鼻を鳴らす。どうやらウィルを虐めた相手が気に入らないのだろう、尻尾で地面を何度も叩く。
「まったく、自分の悪さを他人の所為にするな」
ギルドマスターの八つ当たりの大きな原因は「今月の赤字」であった。ギルドは相手から依頼と共に、依頼料を貰う。無論、その中にトレジャーハンターへの報奨金が含まれていたが、問題は其処にあった。しかしそれはマスターが苦悩する問題ではなく、トレジャーハンター側が悩む問題だった。