ユーダリル

 報奨金――その中には、手数料というも目に見えないお金も含まれている。そのお金でギルド経営は成り立っているのだが、一般のトレジャーハンターはその金額がいくらなのかは知らない。

 ギルドマスターと一部の人間のみが知っており、それが表に明かされることは決してない。だからこそ、ピン撥ねは日常茶飯事。そのことをウィルが知ったのは、つい最近のこと。労働と報酬が釣り合わないことに疑問を持ったウィルは、仲間と共に裏帳簿を見付け出す。

 そして、ピン撥ねの事実を知った。

 そのことに激怒したトレジャーハンター達は、一斉にギルドマスターに詰め寄る。流石に大事にしたくないと素直に観念し、ピン撥ねの事実を認め正しい金額の報奨金を渡すようになった。

「最初から、そうすればいいんだよね。そうすれば、兄貴に頼る回数も減るというのに。まさか、兄貴と裏で……」

 そのようなことはあり得ないが「無い」という保証もない。アルンの繋がりは、思った以上に広い。意外に、繋がりはあるだろう。それに、ギルドマスターの余所余所しい態度も気になる。

 それらを総合すると、正解に近いだろう。一時期「トレジャーハンターギルドをぶっ潰す」と言っていた。それは冗談であったが、内心は本気で行う可能性も高い。思わず、ウィルは身震いしてしまう。

「帰ろうか? 皆も待っていることだし。それに、お前の食事も何とかしないと。帰ったら、飯を作ってもらおう」

 食事という言葉に、ピクっと身体を震わせ反応する。ディオンは、かなりの大食漢。プディングなら、平気で十個は食べてしまう。ウィルの言葉に、首を上下に揺らしながら喜ぶ。

「どうした?」

 帰れることに喜んでいる反面、ディオンは何処か落ち着きがなかった。実家に帰るということは“メイド”に会うことになる。すると、急に悲しそうな声で鳴き出す。そこに嫉妬心が含まれていることは、屋敷で働いている人間なら誰もが知っていることだが、ウィルは知らない。

 だが、理由はもうひとつあった。それは、食事のことである。普段の食事は、ウィルお手製の料理。しかし実家に帰った時は料理人に作ってもらい、それをディオンに食べさせる。

 文句を言わずに食べているということは、それを気に入っているのだろう。だが、内心はウィルが作ってほしいと思っている。しかし、嫌われたくないので何も言わない。好きな人が作った料理――それが食べられないことが悲しいのか、ディオンは泣き出しそうな表情であった。
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