ユーダリル
「何か、悪いことをしたか?」
恋愛に関して鈍感なウィルであるが、それ以外のことに関しては鋭い。その為、ディオンの変化はすぐに伝わった。目元に涙を浮かべるディオンに抱き付く、正直に言うように伝える。
「僕が作った方がいいのか?」
正解を言い当てられたことに、ディオンは混乱してしまう。視線を周囲に走らせ、オロオロとしてしまう。そんな慌しい行動に正しい答えだったと察したウィルは、苦笑を見せる。
わかりやすく、可愛らしい性格。慰めるようにディオンの頭を撫でると、食事を作ってやると伝えた。その瞬間、ディオンの瞳が輝く。よっぽど嬉しいのか、ウィルに擦り寄ってきた。
「こら! 擦り寄るな」
ディオンの体重に押しつぶされそうになるウィルは慌てて逃げると、これからのことを考える。家に帰った後、ディオンの食事作り。そして、アルンにこれからの仕事のことを話す。
気が重いことが待っているが、それは避けることはできない。資金提供者という立場であり、莫大な権力を有する人物。実の兄だというのに、気が引けてしまう。しかし帰るからには、会わないといけない。
「浮かれていないで、帰るぞ」
悩んでいてもはじまらない。それにいつまでもこの場所にいれば、ギルドマスターの八つ当たりが再び飛んでくるだろう。体力を奪われ更に精神力まで奪われたら、立ち上がることはできない。
ウィルは溜息をつくと、ディオン鼻先をポンポンと叩く。そして背に跨ると、渋々ながら家に帰ることにした。
◇◆◇◆◇◆
帰宅と同時に待っていたのは、アルンの呼び出しであった。何か悪いことをしてしまったのかと思ったが、心当たりはない。アルンは、ご立腹の様子。それを聞いたウィルは、顔面蒼白だった。今、逃げ出せば――そのような考えが思いつくも、身体がそれに反応しない。
「あ、兄貴?」
ウィルは部屋に入った瞬間、物凄い形相で睨まれた。その表情にか細い悲鳴を上げてしまうと逃げ出す素振りを見せたたが、アルンはそのことを許さない。低音の声音でウィルの動きを止めると、ゆっくりとした足取りで近付いてくる。同時に、ひとつの質問を口にした。