ユーダリル

「お前に、聞きたいことがあるんだ」

「は、はい」

「ユフィールをどう思っている?」

「えっ?」

 いまいち兄の質問の意図を理解していないウィルは、間の抜けた声を発する。そして首を傾げると、逆にアルンに質問を返す。その質問に対しアルンは厳しい目付きで睨むと、話すように迫っていく。しかし、ウィルの答えは決まっていた。そう、彼女のことは好きだ。

「そうか……」

「あ、兄貴?」

 ウィルの回答に、アルンは完全に壊れてしまう。どうやら二人の関係を知り、意識がぶっ飛んでしまったようだ。身の危険を感じたウィルは左右に視線を走らせ、セシリアの姿を捜す。

 だが、彼女の姿は何処にもなかった。このような時に、何処へ行ってしまったというのか。

 いつも自分を助けてくれるセシリアの不在に、ウィルは珍しいことに目元に涙を浮かべていた。

「あ、兄貴。ほ、他に用事は?」

「煩い! さっさと、帰れ」

 自分勝手な態度にウィルは切れそうになるが口に出した瞬間、間違いなく人生は終わってしまう。それを本能的に察しているウィルは、言葉にできなかった。それに、どす黒いオーラが漂っている。

 このまま帰るわけにはいかない。アルンに仕事に行くことを、伝えないといけないからだ。小声で、そのことを伝えていく。その瞬間アルンは過敏に反応を見せ、ウィルの顔を凝視した。

「ど、何処へ行く」

「あの場所は、兄貴も知っている所だよ。昔、母さんと行った場所。だから、問題ないと思うけど」

「ああ、意外に近いな」

 行き先が判明した途端、アルンの表情が優しくなる。どうやら、遠い場所へ行ってしまうと勘違いしていたらしい。だがアルンのブラコンが治まったわけではなく、更に酷くなっていく。

 ウィルが危険な場所に赴く時は、決まってこのような感情の表し方をする。しかしウィルが行こうとしている場所は、危険な場所ではない。凶暴な生き物も生息しておらず、ハイキングで訪れる人も多い。それでもアルンの場合、何処へ訪れようとも危険なものは危険と思う。
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