ユーダリル
「何も言っていない」
「いえ、アルン様の考えはわかっております。この場合、否定の意見を述べると思われます」
「勿論だ! ウィルには、やってもらうことがある」
言葉でそのように言っていたが、表情は違っていた。内心は「ウィルを危険な目には遭わせたくない」という思いが強く、用事をこなさせ危険回避を図っていた。だが、セシリアは全てお見通し。
だから、アルンの否定を許さない。
「ウィル様は、仕事を楽しんでいらっしゃいます。それを否定する権利は、アルン様にはありません」
「いつになく厳しいな」
「先程の件が、関係しております」
二人が話す会話の意味がわからないウィルは、何を言っているのか尋ねる。しかしアルンは、話そうとはしない。ウィルとユフィールが、互いに愛し合っている。そのことはアルンにとって衝撃的な内容であり、二人の仲をどのようにして妨害しようかと、影で計画を練っていく。その為に、ユフィールがマフラーを編んでいるということは、口が裂けても言えない。
無論、没収も考えられる。
「それはですね……」
「仕事をするぞ」
全てを話されることに危機感を感じたアルンは、セシリアが持っていた資料を奪い取ると、珍しく自主的に仕事をはじめた。普段のアルンから想像できない慌てふためく姿にウィルは首を傾げ、何か悪いモノでも食べてしまったのかと気になってしまうが、どうやら違うらしい。
「お前には、関係ない」
「ならいいけど。で、仕事していいかな? いい加減に仕事をしないと、周囲が煩く言うんだ」
「す、好きにしろ」
「おっ! 今日の兄貴は、優しいね」
「別に、おかしくはない」
珍しく素直で優しいアルンに気持ち悪い一面を見出すも、ウィルは喜んでそれを受け入れた。
仕事をしていいと許可を得られれば、これ以上この場にいる理由はない。それにアルンの気が変わる前に立ち去らなければ、小言を言われるのは間違いないだろう。いくらセシリアの圧力に負けているとはいえ、何が起こるかわかったものではない。やはり、逃げるが一番。