ユーダリル
だが、努力にも限界がある。
何ゆえ、ここまで弟に執着してしまうのか。素敵な兄弟愛とも取れなくもなかったがアルンの行動は、聊か行き過ぎ。そして、長い付き合いのセシリアに言わせれば「過保護すぎ」となってしまう。ウィルはウィルで独立をしているので、事細かに心配する必要などない。
そこに「寂しい」という感情が含まれているということは、わからないわけでもない。ただ、物事には限度というものがある。セシリアは折れたペンを片付け新しいペンを用意すると、アルンを一瞥する。そして大きな溜息をつき、今後のことについて真剣に考えはじめた。
「何だ?」
「何でもありません」
「そうか。まったく……」
最後の台詞は、上手く聞き取れなかった。しかしセシリアは、特に興味を示す素振りを見せない。いつものこと――ただそれだけのことであり、いちいち反論していたら身が持たない。
「アルン様、仕事はそれだけではありません」
「わかっている」
「それでしたら、早く終わらせてください」
いつになく厳しい口調のセシリアに戦くアルンは、ここは素直に従うしかないと判断する。
今日は、逆らうべきではない。
本能的にそう察したアルンは、黙々と仕事を進める。内側に溜まったストレスを、そう簡単に抑えることなどできない。
よって、二本目のペンを無駄にした。
セシリアの伝言によりウィルは、ユフィール達メイドが使用している休憩部屋に向かった。
部屋に入った瞬間、甘い香りが鼻腔を擽る。お茶会が開かれているのだろう、テーブルの上には沢山の菓子が置かれていた。
「ウィル様!」
「お待ちしていました」
ウィルの姿に気づいた瞬間、一斉にメイド達が集まってきた。黄色い悲鳴を上げながら近づいているのは、ウィルが人気だということを表していた。何でもアルンのような強情な一面がないというのが、惹かれるという。しかし一番の理由は、外見が可愛らしいということだろう。