ユーダリル

「お菓子を用意してあります。食べていってください」

 背中を押され、部屋の中心へと連れて行かれる。すると、ある物が視界の中に入ってきた。緑色をしたプディング。それを見た瞬間、ウィルは固まってしまう。そう、緑のプディングには良い思い出がない。

「こ、これは?」

「見ての通り、プディングです」

「それはわかるけど、何で緑なんだ?」

「勿論、野菜が入っているからです」

 満面の笑顔で答えていくメイドの表情は、ウィルにとっては悪魔に近いものがあった。何でも苦手な野菜を克服させようと、料理人と相談し作ったらしい。中身はウィルの予想通り、ピーマンをすり潰したもの。

「これって、君達の休憩用じゃないのかな?」

「そうですけど、ウィル様にも食べてもらいたくて」

 その言葉に、メイド達が一斉に頷く。しかしウィルは「はい、そうですか」と言うわけにはいかない。明らかにこれは計画的であり、料理人と相談したという話からして意図的だ

「それより、ユフィールは?」

「あら、先程までいたのですが……」

「もう少しで、帰ってきますよ。ですので、お菓子でも食べて待っていてください。さあ、どうぞ」

 だが、ウィルは席に座ろうとはしない。それどころか一歩一歩と後退し、この部屋から逃げようとする。だが、その動きも予想済み。

 数人のメイドが入り口を塞ぐと、残りのメイド達がウィルを捕まえようとする。素早い動きでそれらの攻撃を避けると、ウィルは扉を守るメイドと勝負するが、結果は明らかであった。

 雇い主の弟に手を出せない。尚且つ大好きな――という理由から、メイドの敗北は決定した。

 ウィルは部屋から飛び出ると、全力で廊下を駆けて行く。その途中、捜していた人物――ユフィールと出会った。

「あっ! こんなところにいたんだ」

「ど、どうしたのですか?」

「いや、ちょっと……」

 全力疾走で廊下を駆け抜け、ウィルは肩で息をしていた。明らかに何か事件が起こったと思われる状況に、ユフィールはどのようなことがあったのか尋ねていた。すると質問に答えようとウィルは口を開くが、後方の状況が気になるのだろう、落ち着きがない。それに、警戒もしていた。
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