ユーダリル
ウィルは頭を振ると立ち上がり、元気だということを伝えた。
腹が痛いから、部屋に行く。
そのような言い訳を考えていたが、別の言葉を発してしまう。嘘をつきたくないという思いの他に、後々尾を引いてしまう。無論、メイド達の小言もそうだ。しかし、それだけではない。嘘を付いてまでピーマンから逃げたとなれば、アルンが爆笑し何ヶ月も言われ続ける。
相手が実の弟であろうとも、可笑しいものは可笑しいと笑う。それも、腹を抱えての馬鹿笑い。これ以上腹立たしいことはなく、尚且つ反論できないことがとても悔しい。過去に数回、ウィルはそれを体験している。故にピーマン関係で笑われたら、屈辱の何ものでもない。
こうなると、選べる答えはひとつしかない。それは、泣きながらピーマンを食すということだ。この歳で野菜を食べる訓練とは何とも情けないことだが、圧力に勝つ可能性は低い。
「ねえ、ユフィール」
「何でしょうか?」
「ユフィールと二人なら、いいかな」
その台詞に、全身が石のように硬直してしまう。頭の中に響くのは「二人なら」という言葉。だが、それがどのような意味合いで言ったのかは、理解することはできない。その為、想像のみが膨らんでしまう。それらは浮かんでは消え、想像は果てしない広がりを見せる。
一点を見詰め、ユフィールは何も言えなくなってしまう。突然の変化にウィルはユフィールの肩を掴むと思いっきり身体を振るが、彼女の意識が戻ることはない。それどころか顔が見る見るのうちに赤く染まっていき、ウィルの支えがなくなれば倒れてしまいそうであった。
「ユ、ユフィール?」
「えっ! は、はい」
「さっきの話、わかった?」
「え、えっと……そのことですが……」
二人っきりというのは恥ずかしいので、ユフィールは断ろうとしていた。ウィルが続けた言葉に、別の意味で再び固まってしまう。ウィルが「二人なら」と言った理由とは――それは、メイド達の攻撃が恐ろしかったから。そう、彼女達を敵に回した場合、命の保障はない。
衝撃的な真実に、思わず俯いてしまう。其処に特別な何かがあって二人っきりになることができると思っていたが、ウィルがそのようなことを行う性格ではない。いまだに、深い進展がない恋。これが報われる時は、アルンのブラコンが治った時になるだろうが、それは遠い。