ユーダリル

「今回は、大丈夫です。この前は、失敗してしまいましたが。ですので、安心して食べて下さい」

 最近ユフィールは、本格的に料理の勉強をはじめた。全ては「美味しい料理を作る」という目標の為。

 今日、その成果を見せる時が来た。ウィルのピーマン嫌いを克服してもらおうと、試行錯誤の末に作り上げた愛情が篭ったピーマンプディング。これで好き嫌いが治ればいいと淡い期待をしてしまうが、まずは食べてくれなければはじまらない。それに、感想も聞きたかった。

 だが、ウィルはなかなか食べようとはしない。相当ピーマンという野菜を毛嫌いしているらしく、プディングから視線を外してしまう。

「お約束をしてくれたので、私……」

 なかなか食べてくれないということにユフィールは、嫌われてしまったのかと勘違いしてしまう。

 そして無理に作ったことを謝ってくるが、その切ない声音にウィルの身体がピクっと反応を見せた。泣かせてしまった――瞬時にそう判断すると、プディングを食べると宣言する。

 女の涙に弱いウィル。それはユフィール限定で、他のメイド達に泣かれても何とも思わない。

 寧ろ「嘘泣き」と判断し、注意を行う。

 流石ラヴィーダ家で働いているだけあって、メイド達は様々なスキルを持ち合わせていた。そのひとつである嘘泣きは、想像以上に強力だ。しかし同じメイドでありながら、ユフィールはそれらのスキルを持たない普通のメイド。

 セシリアという強力な姉のお陰で事なきを得ていると思えるが、純粋無垢という意味では最強だ。お陰でウィルを困らせ、プディングを食べる方向に持っていかせることに成功した。

(はあ、仕方ない)

 渋々ながらフォークを手に取ると、プディングの端っこから小さな欠片を取る。そして恐る恐る口に運び、プディングというよりピーマンを味わった。いくら量が少ないとはいえ、嫌いな食べ物の味は微量でもわかってしまう。その為、ウィルの顔色が徐々に悪くなってしまう。

「ああ、ウィル様!」

 身体が見せるピーマンに対しての拒絶反応は強く、プディングを一口食べただけでウィルは倒れてしまった。

 椅子から滑り落ちるように崩れ去るウィルは、床に倒れるとピクリとも動かなくなる。いきなりのことに、ユフィールはどのように介抱して良いのかわからない。ただウィルの身体を揺さぶり、名前を叫ぶだけ。
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