ユーダリル
だが、アルンは異なる。セシリアの以外の女性を見付けることができず、独身を通すに違いない。セシリアにとってこのマイナス面が悩みの種であったが、その点ウィルは期待できた。
仕事優先の場合も強いが、ユフィールのことを大切にしている。現に、二人は仲がいい。そしていずれは結婚してほしいと考えているが、それを実行するにはタイミングが必要だ。それを間違えたら、アルンが邪魔をしてくる。もしそうなってしまったら、全てが終わりである。
しかし、全員を味方につければ大丈夫だろう。実のところアルンのブラコンに悩まされているのは、セシリアやユフィールだけではない。多くの人間はとばっちりを受け、迷惑をしている。
内心は皆アルンに仕返しをしたいと思っているのだが、いかんせん相手は怖い。だからこそ全員が協力し、ひとつのことを成し遂げる。ささやかな抵抗。それは、ウィルとユフィールをくっつけること。
「手が止まっていますよ」
「君がサインを……」
「何か?」
満面の笑みを浮かべながら、圧力をかけていく。アルンにこのようなことができるのは、彼女だけしかいない。だからこそ屋敷で働いている者達から、セシリアは崇められているのだ。
「昔のセシリアがいい」
ポツリと呟かれた言葉は、アルンの心情を表すに相応しいものであった。出会った当初、多少は刺々しい雰囲気があったが優しい一面も持っていた。だが、今は違う。妹がウィルのことが好きとわかった途端、性格が一変。いや、一変しなければいけない。全ては、アルンが悪い。
行動力が増したセシリアを止められる人物など、ユーダリルにはいないだろう。そう言われるまで性格が変わり、唯一アルンを止められる存在と成長する。お陰で、平和な毎日が続く。
「そのようなことを言う暇があるのでしたら、仕事をしてください。こんなに仕事が溜まっているのですから」
「……多いな」
「当たり前です! これ以上増やしたくないのでしたら、毎日真面目に仕事をやることです」
このやり取りは過去何度となく行われてきたが一向に改善することなく、アルンは仕事を溜めセシリアを困らす。一体、何が面白くて仕事を溜めるのかわからない。それが、セシリアにとって頭痛の種でもあった。渋々ながらペンを握ると、アルンは書類にサインをしていく。