ユーダリル

 やる気になってくれたとホッと胸を撫で下ろすセシリアであったが、安心はできない。何故なら、アルンの持続力の低さを知っているからだ。数十分、やはり予想通りのことが起こった。

 集中力を切らしたアルンが、飽きてしまったのだ。だが、この対処法も把握済み。そう低音の声音で、ウィルのことを言えばいいのだ。

 ウィル様に、言いますよ。

 流石にこれは、絶大な効果を見せた。威厳ある兄でいたいアルンにとって、仕事をサボっていることをウィルに知られたくない。

 いや、このことをウィルは知っている。ただ、一時間も集中できないことが問題であった。
 セシリアの言葉に、アルンは投げ出した仕事を再開する。その表情はブスっとしたものであったが、セシリアにしてみたらどのような表情をしようとも、仕事をしてくれれば良かった。

「忘れていました」

 タイミングを見計らったかのように、セシリアはあることを呟く。それは、まだ仕事が増えるということであった。それに対しアルンはピクっと身体を震わせるも、それ以上は何も反応を見せない。

 何を言っても無駄と判断したのだろう、物分りが良くなったアルンにセシリアは微笑を浮かべると、仕事のスピードを速めようと喝を入れた。急がなければ、徹夜になってしまう。しかし渇を入れたところで、仕事を進めるスピードは遅い。これもまた、アルンらしかった。


◇◆◇◆◇◆


 薄い雲が広がるユーダリル。その中を優雅に飛ぶのは、ディオンであった。清々しい空気が気持ち良いのか、目を細めどこか嬉しそうだ。そして身体を左右に揺らし、酔っ払いのような動きを取る。本人は、楽しんでやっていることだろう。背に乗っているウィルにしてみたら、困った動きである。

 このようなことで酔いはしないが、乗り心地はかなり悪い。お陰でウィルは、不機嫌だった。仕方がなかったので、風景を楽しむことに集中した。空に浮かぶ島は、ウィルにとっては珍しいものではない。

 生まれてから今まで見慣れた光景であるが、こう改めて見ると違った印象を受ける。どの島にも個々の特徴と独特な雰囲気を持っており、意識して観察をすれば新たなる発見があった。

 それどころか、ひとつひとつ調べていったら面白い体験ができるだろう。意外に、身近な場所は訪れることは少ない。だから様々な発見ができるに違いないと、好奇心を誘う。
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