ユーダリル

 これから向かおうとしていた場所は、決まっていた。しかし寄り道をするのも悪くはないと思いはじめたウィルは、ディオンに近くの島に行きたいということを告げた。急な針路変更にディオンは「何?」という表情を見せるも、ウィルからの命令だからと素直に従う。

「うお!」

 気流に乗って飛ぶのを得意としている飛竜。その為、針路変更は乗っている人間にまで被害が及ぶ。いきなり身体を左右に振られ、ウィルは背中からずり落ちそうになってしまう。

 何とかしがみつき、体勢を整える。流石にこの高さから落ちたら、命の保障はない。生死と隣り合わせの空中散歩。気持ち良い反面、一歩間違えれば確実にあの世の行ってしまう。

 空を飛べる生き物を飼育している者は、この空中散歩をやめようとはしない。要は「普通では体験できないことができる」という、優越感があったからだ。人間は、空を飛ぶことはできない。だからこそ空への憧れが大きく、ユーダリルのような空中に浮かんだ島に暮らそうと思った。

 そもそもどのような切欠で、ユーダリルに人が移り住むようになったのかは、あまり知られてはいない。それは、正式に記録が残されていないからだ。多分「空への憧れ」という理由が、適切な答えだろう。

 今も昔も、人々が持つ考え方は一緒。要は、憧れが強かった。寄り道をするように言った場所は、それほど大きな島ではなかった。だが其処は緑が美しく、人々の憩いの場となっていた。

 休憩用の置かれたベンチには、お腹が大きな女性が腰掛けている。そしてその近くには女性の子供だろうか、可愛らしい男の子が一人で遊んでいた。島で有意義な時間を過ごしていたのは、この親子だけではない。年配の夫婦やウィルと同年代の人達が、ひと時の安らぎを楽しんでいた。

 今日は、最高の天気。このような気候の時は、部屋にいるのは確かに勿体無い。ウィルは邪魔になってはいけないと、島の端に降り立つように言う。その言葉に大きく頷いたディオンは、大きく広げた翼に風を集めると、その抵抗でゆっくりと地面に降りて行く。そしてふわっと風が舞うと同時に、柔らかい草の上に着陸した。

 いつもながらに、着地に関しては上手い。この前の件は事故で、此方の着陸方法がディオンのやり方だ。

「ご苦労様」

 地面に着陸しディオンの背中から下りると、労いの言葉を言う。ディオンはウィルにとって、いなくてはならない相棒。だからこそ、どんなに小さなことであっても感謝の気持ちは忘れない。感謝の気持ちがなくなってしまったら、互いの関係は消滅してしまうだろう。
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