ユーダリル

 それは小さな心配りであったが、二人の関係を強く繋ぎとめるものとなる。何よりディオンは、ウィルのことが大好き。たとえ言葉を発することができなくとも、心は通じ合っていた。だから、意識しなくとも言葉が生まれる。それは感謝の言葉であり、愛情を示す内容でもあった。

「あっ! ウィル兄ちゃん」

 その時、元気の良い男の子の声が響く。声がした方向に振り向けば、其処には妊婦の近くで遊んでいた少年が立っていた。ウィルは街の子供達に大人気なので、このように声を掛けられる。

 草を踏みしめ、少年が此方に向かって駆けてくる。息を切らし駆けてくる姿は、ウィルをどのように見ているのかわかるものであった。

 少年はウィルの前に行くと大きく息を吸い、呼吸を整える。そして満面の笑みを見せると、此処に来た理由を訊ねた。憩いの場となっている此処は、トレジャーハンターが狙う宝などない。

「散歩かな」

「散歩? ウィル兄ちゃんも大変な仕事をしているから、気晴らしは必要なんだね。可哀想」

「まあ、そういうことかな」

 トレジャーハンターの仕事は、とても疲れる職種である。だがそれは好んで行っていることなので、ウィルにとっては苦にはならない。その中で一番の問題は、兄であるアルンだろう。

 考えただけで疲れが出てくるほど、困った人物でもある。そのことに、ウィルは大きな溜息をつく。少年は、ウィルが考えていたことを見事に当ててしまう。普通の少年とは思えない的確な読みに、何故わかったのかと聞く。すると、少年からは意外な答えが返ってきた。

「姉ちゃんが、ウィル兄ちゃんの家で働いているんだ。あれ? 姉ちゃんのこと知らないんだ」

「御免、わからない」

「そうだ!ウィル兄ちゃんは、別の場所で暮らしているんだった。だから、知らなくて当たり前だよね。あのね、姉ちゃんって喋るのが好きなんだ。家に帰ってくると、屋敷であった出来事など普通に話しているから。で、その中に、ウィル兄ちゃんのことも含まれて痛んだ」

「そ、そうなんだ」

 世間は広いようで狭いと言われているが、この少年の姉が実家の屋敷でメイドをやっていたとは、普通は思わない。それなら、普段のアルンの行動も知っているに違いない。試しにそのことを尋ねると、少年は大きく頷く。その反応にウィルは、更なる質問をぶつけていた。
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