ユーダリル

「兄貴のこと、どう思う?」

「姉ちゃんの話では、凄い人だと思う。でもその人はウィル兄ちゃんの兄ちゃんだから、何も言わない」

 此処で、相手の悪口を言うこともできる。しかし、どのような人物であってもアルンはウィルの兄なので口が裂けても言えず、少年は沈黙してしまう。それに悪口によって姉が職を失ったら大変だ。

「そんなことよりも、ウィル兄ちゃん」

 何を思ってか、改まって質問をしてくる。急な質問と真剣な目付きにウィルは戦きつつも、何を聞きたいのか尋ねる。するとその内容は、屋敷で働いているメイド達に通じるものがあった。

 それは、ウィルとユフィールの関係を訊ねるものであり、少年もこの恋の行く末を気にしていた。流石に姉が屋敷で働いているだけあって、ユフィールという少女の性格も知っていた。それに、ウィルと付き合っているということも。その為、誰もが好奇心を抱いてしまう。

「……えっ!」

「ウィル兄ちゃんは、将来どうしていと思っているの? 個人的に、一緒になってほしいな」

「い、いや……」

 煮え切らない態度に、少年は唖然となる。その為、ウィルに早く一緒になってほしいと訴えていく。そのように言っても、簡単に一緒になることはできない。そう、アルンが悪い。だが、妨害している対象はアルンだけではない。何でも首を突っ込んでくるメイド達も、厄介だった。

 恋愛は、周囲が急かしたところで上手くいくものではないが、周囲はそれに気付いていない。

 その時、何を思ったのかディオンが二人の間に割ってはいる。どうやら少年の質問に困った表情を見せているウィルが、気になったようだ。困った表情は、ウィルの危険サイン。そう勝手に判断をしたディオンは鼻先で少年の身体を押し、ウィルから離れさせようとする。

 何とも可愛らしい姿であるが、其処には嫉妬心が含まれていた。ウィルの身の回りに関しての出来事に、常に神経を向ける。そして高い学習能力により「ユフィール」と「メイド」の単語に反応するようになった。

 特に「ユフィール」に関しては過敏に反応し、その仲を邪魔する。そして、嫉妬に燃えたディオンにはその言葉は通じなかった。ただ懸命に少年の身体を押し、この場から立ち去るように促す。

 だが、少年も負けていない。ディオンの行動を理解したらしく、面白半分で言葉を発した。無論、少年はディオンの恐ろしさを知らなかった。
< 81 / 359 >

この作品をシェア

pagetop