ユーダリル
「ウィル兄ちゃん、結婚しましょう」
「えっ?」
「いいじゃない。ウィル兄ちゃん、優しいから」
「……誰と?」
「ユフィールのお姉ちゃんに、決まっているじゃない。それ以外に、誰がいるというのかな」
言葉の意味に固まってしまったらしく、なかなか答えが返ってこない。それどころか、先に理解したのはディオンだった。結果、少年に対しての攻撃が強まる。何と顔を左右に振り、少年を叩く。
「ディオン!」
「い、痛い! ウィル兄ちゃん、助けて」
「こ、こら!」
「あああ、噛まれた」
「ディオン、何をしている」
「こ、殺される」
「ちょっと、待って。口を開けさせるから」
「ウィル兄ちゃん、早く」
暴れるディオンの口を強制的に開き、少年を解放する。しかし、興奮したディオンを簡単に宥めることはできない。寧ろ状況は更に悪化していき、ウィルでさえ止められない状態にあった。
「落ち着け」
ウィルが取られてしまうことを阻止しようと、懸命に頑張るディオン。何とも健気な姿であるが、人間より大きな体格をしている飛竜が暴れてはひとたまりもない。お陰で、修羅場となる。
温厚な飛竜が、子供を襲っている。
これは、予想以上に大問題であった。それも、ウィルが飼っているディオンなら尚更である。ディオンは飛竜の中ではおっとりとした性格で、人に危害を加えるような生き物ではないといわれている。
そのディオンが、人を襲った。予想外の行動に少年は驚くも、一番驚いたのはウィルである。と同時に、アルンの顔が脳裏を過ぎった。間違いなく、この件で何かを言われるだろう。
「ディオン」
懸命の宥めにより、ディオンはやっと少年を解放した。それでも興奮は治まっておらず、フンっと鼻を鳴らしている。だが、突然の攻撃を受けた少年は無事であった。どうやら手加減して攻撃したらしく、無傷で生還を果す。もし本気で攻撃をしていたら、今頃少年は命を落としていた。