Moon Light
野田正樹との出会いはお見合いだった。当時の私は酷い失恋をしたばかりで、それこそ人生そのものを捨ててしまいたくなるほど落ち込んでいた。
そんな私を見かねた両親が強引に見合いをセッティングしたのである。
正樹の第一印象は、容姿ばかりが際立っていたため、さぞかし女遊びが激しい人なのだろうと思った。
しかし実際は奥手で誠実な人だった。つき合い始めてもなかなかキスの先には進まず半年経ってようやく私達は結ばれたのだ。
この人となら穏やかにこれからの人生を歩んで行けると思った。そう。あの日までは…。
その日は正樹の親族揃っての食事会をするため、彼の実家にお呼ばれしていた。食事会という名目だが実際は家族と親戚による私の査定会だ。
正樹の家は由緒ある武士の家系らしく実家は広い庭園に日本家屋。私を怖じ気づかせるにはそれだけでも十分だった。
案の定、親戚達は次々に侮辱ともとれる内容で私へ質問を浴びせる。正樹が必死にフォローするものの誰も聞く耳など持っていない。
私はすでに心が折れてしまい泣き出す一歩手前だったその時、一番下手に座っていた男性がスクっと立ち上がったのだ。