Moon Light
翌日は近くの観光名所を回ろうと約束していた。しかしその朝、正樹の元に緊急の電話が一本入ったのだ。
中国の工場に赴任していた技術者が体調不良により帰国せざるをえなくなったらしい。そこで正樹が急遽ピンチヒッターで呼ばれることに。
「せっかくの新婚旅行なのにホントごめん」
「正樹のせいじゃないでしょ。私も一緒に帰るから」
「いいよ。杏奈はゆっくりしてて」
「そんなこと出来ないよ」
「もう琢磨(たくま)に頼んだから、ゆっくり案内してもらうといいよ」
「…えっ?」
「あいつさー、この辺はよく撮影に来るから詳しいらしいんだ。俺も琢磨なら安心して任せられる。昼頃には着くらしいから」
ニコニコと笑いながら話す正樹に反論なんて出来なかった。そして私は戸惑いながらも彼がやって来る事を喜んでいる。
本当に最低の女だ。
そしてちょうど昼頃、本当に彼は現れた。細身のTシャツにジャケットを羽織り黒のパンツを合わせた出で立ち。付き合っていたあの頃と同じだ。
彼は私を見て薄く微笑むとその腕でしっかりと私を抱き締めた。