Moon Light
琢磨と知り合ったのはモデルをしていた友人エレナを通じてだった。
180㎝はある身長。染めているわけでもないのに茶色に輝く髪。少し長めの前髪からのぞく切れ長の二重の瞳に一瞬で心を奪われた。
カメラマンをしている彼は当然のようにモデル達からモテていて、女は日替わり定食と同じ感覚で全く不自由していなかったらしい。
そんな彼がどうして私を好きになってくれたのかが未だに分からない。いや、好かれていたと言うより周りに居なかったタイプに手を出してみたくなっただけだろう。
でも実際、琢磨とのつき合いは上手くいってたと思う。しかし私の心の狭さがこの関係を壊してしまった。
あるモデルと噂になり、何も無かったと言う琢磨の言葉を信じきれず一方的に別れを告げた。別れを素直に聞き入れた彼はその後すぐに海外へ行ったと人づてに聞いた。
あの食事会で偶然会った時は本当に目を疑ったし自分の運命を呪った。だって…ありふれた名字で正樹と琢磨が兄弟だと気づくことなんて出来なかったのだから。
あの日のキスで琢磨をまだ好きな自分に気づいてしまったが、もともと琢磨は結婚などという枠に囚われたくない人間だ。
ならば、正樹と結婚をして義理という関係でも姉として琢磨の近くにいたいと思ったからこそ、私は悪魔に魂を売り渡したのだ。