【短編集】思春期は欲望の色
❸裏庭 side高校
教室のすみっこの席に いつも
すわって本読んでる 中山くん
小柄で 色白 華奢な身体つき
黒ぶちの重そうな眼鏡と 長めの前髪で
あんまり顔がはっきりしない
はっきり言って 陰キャラ
話したことはあるけど おぼえていない
あたしの中では それくらい
存在がうすい きっとみんなそう
この前 中山くんが
カツアゲされてるのを見た
身長の高い 力のありそうな
男の先輩たちにかこまれて
そのとき あたしはひとりで
まわりに誰もいなくて
助けなくちゃと 思ったけど
こわくて近寄れなくて
その場から 立ち去ることもできなくて
ただただその光景を 見てた
男の先輩たちが 中山くんに
更につめよって うつむいた
肩がふるえてる 中山くん
ひとりの先輩が 中山くんのポケット
手を入れて きっと財布を探してるんだ
あたしが息をのんだ その瞬間
財布を探してた先輩が たおれて
黒い かげ が 中山くんの前に
あらわれた
ひとりの女生徒 たぶん先輩
中山くんを かばうようにして
立って あたしの所までは
聴こえなかったけど とても
とても 冷たい 眼 を して
とても 綺麗な 顔 を して
なにか 言った
どこからあらわれたのか と思えば
中山くんが 背中をつけてた
壁の 窓から ふってきたのか
気づけば
そこに男の先輩たちはいなくて
中山くんと 女の先輩 だけ
黒い ふたりの制服と
白い ふたりの 怖いくらいに白い
ふたりの 肌が
おたがいを 白と黒 を
きわだたせて
女の先輩が 中山くんの 頬を
両手で つつんで やさしく
やさしい 手つきで 撫でて
中山くんと ぐっと 顔を 近くして
そのとき ふと静かになった
女の先輩の声が 聴こえた
「私以外の手が触れた汚物」
あたしは目をみひらいた
はっきりと そう 聴こえた
「もう触ってあげないよ?」
その顔 は
黒い 髪 から のぞく その 顔 は
ぞっ と する
くらい 綺麗 で とても
うつくしい 笑み で
最初はゆっくりと あとずさり
夢中でかけだした あたし
だって 絶対 みてはいけないもの
みてしまった ああ だって
女の先輩をみつめる
女の先輩から眼をそらせない
中山くんは 中山くんの 身体 は
ふるえていた とても
おびえているように
でも だけど それ以上に
うれしそうに ふるえていた