なんで私が芸能人ッ!?
ちょっと無言の続いた車をおりて、スタジオには入る。
それから、しっかり芸能人モードでご挨拶。
「おはようございまーす♪」
何人かが返事をしてくるなかで、一人私のところへよってくる。
誰って?
「おはよう、矢城さん。」
妖しげな、それでいて楽しそうな笑みを浮かべる宮崎さんだ。
「お、おはようございますっ。」
軽く頭を下げて挨拶を返すと、宮崎さんは、
「ふふっ、今日もよろしくね。」
と言って、去ってった。
「…………何だったんだろ」
ぼそっと呟いていると、今度は先輩に声をかけられる。
「おい、宮崎凛花が気になるのもわかるが控え室行くぞ。」
「はーい。」
先輩に返事をして着いていく。
「………うわぁ。」
それからついた控え室はいろいろ揃ってる部屋で、なんか感動。
「そのうち呼ばれるだろうから、それまでゆっくりしてろ。」
「はい。」
「…………………。」
「………せ、先輩!!修学旅行が合同って知ってました?」
「ああ。」
「……………………。」
き、きまずい……。
あれだよね、先輩も私もそんなにしゃべるタイプじゃないから二人きりだと話題がなくて困る。
「………先輩、私少し対人恐怖症じゃないけど、そういうのが大丈夫になってきた気がするんです。」
だから、先輩も乗っかってくれる話題を出してみた。
まあ、これは本当のことでもあるんだけど。
「そうか。…………良かったな。」
「私も、良いことだって思うんです。
なのに、なんで不安になるんですかね?
ふとした瞬間に、自分が誰だかわからなくなる。」
これも本当に最近出てきた不安。
今までだったら、一人で片付けるような悩みごと。
「なんていうか……芸能人のりまに感化されたっていうか………。
一緒になった感じなんですよね。」
あはは………私、なんてつまらない悩みごとを相談してるんだろうね。
「…………前にも言ったけど、りまはりまだろ。
それに芸能人のりまはもともとお前で、それに明るいとかの設定を入れただけ。」
この子も私だっていうことなんてわかってるんだけどな………。
けど、こんなくだらない不安に真剣に答えてくれる先輩。
「だから、お前は役に乗っ取られたんじゃなくてお前が強くなったんだ。
人への恐怖っていう弱点を克服しかけて、性格を変えようとしてるだけだ。」
「性格を、変える?
……………もしそうなら、ちょっとは宣言したことが達成に近づいけてるのかもしれないですね。」
芸能界に入ったときのことを思い出す。
「当たり前だろ?
俺がいるんだから。」
にっと笑いながら言った俺がいるんだからは、不器用な先輩の励まし……というか応援?みたいな支えの言葉に聞こえる。
そんな先輩は、また私を笑顔にしてくれるんだ。
「…………ふふっ、先輩って不器用なんですか?」
なんとなく先輩を茶化してみると、
「はっ!?お前俺のどこ見てんだよ!!」
って怒られた。
でも、私だって。
「もちろん、全部見てますよ?
なんたって、私のマネージャー様ですから。」
「うっせぇ、もう俺は仕事あるから先スタジオ行ってろ!」
あーあ、照れた先輩に追い出されちゃった。
ま、おとなしく撮影に向かいまーす。
そして、私は笑顔でスタジオに向かった。
控え室には
「マネージャーね………。」
という先輩の呟きが響いてた。