神楽先生には敵わない
「早すぎた?」
あまりにも仕事が順調に終わりすぎて、
尚且つ着付けの時間もスムーズで、待ち合わせの時間の三十分前に到着してしまった私。
駅前には同じ目的の人間であろうたくさんの人で混み合っていた。
待ち合わせの場所の駅前のロータリーに立っているものの、
先生の姿を見つけ出せるか少し心配になってしまう。
「五分前ぐらいになったら連絡すればいいか」
私は携帯の画面を見て先生からの連絡が無い事を確認すれば、
一度辺りを見回しながら時間が過ぎるのを待った。
「…」
先日アシさん達が言っていたあの言葉。
‘恋煩い‘
確かにここ数日の先生は何処か悩んでいるような気がしていた。
仕事の話をしていても何処か上の空だったり、
原稿でも初歩的なミスが出ていたり。
「え~。何でもないよ~」
と笑ってやり過ごすその言葉すら嘘に見えるぐらい、
常に考え事をしているように見えた。
漫画の事じゃない。もっともっと深い所にある問題。
先生のことだから私が何言っても大丈夫って言うけど、
私ってそんなに頼りないのかなと時々不安になったりもする。